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ここがヘンだよ! 「非正規」に「ビジネスケアラー」……違和感だらけの雇用関連ワード5選働き方の見取り図(1/2 ページ)

» 2025年04月25日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 「名称で仕事をするわけじゃないんだから、何でもいいんだよ」

 管理職になりたてのころ新部門の立ち上げを任され、数日間悩み抜いて決めた部署名案を提出した際に上司から投げかけられた言葉です。すんなり承認されましたが、言葉の綾とはいえ、「何でもいい」という最後の一言に拍子抜けしました。

 上司が伝えたかった真意は、「大切なのは名称ではなく仕事の成果だ」ということだったのでしょう。確かに、良い名称をつけただけで成果が出せるというものではありません。

 一方で、「名は体を表す」という言葉があるように、名称は人々の印象にさまざまな影響を与えます。時には誤解を招き、ミスリードを引き起こすことさえあります。何でもいいとはいかないのが実情です。ところが日常を振り返ってみた時、不適切な名称を無意識のうちに用いていることはないでしょうか。

 実際に、社会の中で使われる名称が見直された例は少なくありません。例えば、「痴呆症」という言葉は、侮蔑的で実態とのイメージが乖離(かいり)しているとの理由から、2004年に行われた厚生労働省の検討会によって「認知症」へと変更されました。他にも「看護婦」が「看護師」へ、「精神分裂病」が「統合失調症」へ――と変更された事例などもあります。

 同様の視点で見た時、雇用に関わる分野でも名称が実態とずれ、ミスリードにつながりそうな違和感だらけのワードがいくつも見受けられます。違和感の正体はいったいどこにあるのか、5つの雇用関連ワードから探ります。

「非正規社員」に「ビジネスケアラー」……違和感の正体とは。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫

愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。

所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。

NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。


「非正規社員」

 まずは、「非正規社員」という言葉です。いわゆる正社員以外の雇用形態のことを指しますが、非正規とは正式な規則に則っていないという意味になります。「非正規ルート」や「非正規品」「非正規契約」のように使われ、違法にさえ映る言葉です。

 しかし、現実にはパートタイマーやアルバイト、派遣社員など非正規社員にくくられる人々も、労働基準法や労働者派遣法といった法令にもとづいた契約を結んで働いています。れっきとした正規の社員です。非正規という言葉が与える印象は事実に即していないばかりか、働き方に対する偏見を助長する恐れがあります。

 一方、対照的なのが正社員です。基本的に、無期限で職務内容も勤務地も無限定の雇用契約を指します。「正」や「非正規」という言葉に引っ張られると、正社員のみが良い雇用形態で、非正規社員は悪い雇用形態のように見えますが、実際はどんな働き方でも本意型と不本意型が混在しています。

 ブラックと言われる過酷な働き方を強いられるケースの多くはむしろ正社員です。半面、ライフスタイルに合った働き方として非正規社員を自ら望んで選択している人もたくさんいます。それなのに非正規と呼ぶのは、差別的でさえあります。「不本意型非正規社員」などと丁寧に表現される報道も見られるようにはなったものの、非正規社員という呼称は残り続けたままです。

 非正規呼ばわりされる背景には、有期雇用で立場が不安定だったり賃金水準が低かったりと、深刻な共通の問題があります。それらの解決は重要ですが、パートタイマーと契約社員と派遣社員とでは、適用される法制度や特徴などが異なります。

 労働者派遣法を改正しても、対象は派遣社員のみです。非正規社員の10%に届きません。しかし、非正規という名称で安易にくくる風潮があると、あたかも非正規社員全体が抱える問題に対処したかのように感じられます。雇用形態個々の名称を用いず、正社員か非正規社員かと雑に振り分けてしまうことが実態を見えづらくさせます。

「ジョブ型雇用」

 次に「ジョブ型雇用」という言葉です。近年ジョブ型雇用の導入をうたう会社が増えていますが、実態の多くはジョブ型雇用ではなく、職務限定のメンバーシップ型雇用です。

 ジョブ型雇用とは欧米の雇用システムの特徴を表している理念型であり、契約は職務にひもづいています。そのため、原則的にはどれだけ優秀な能力や資格を有している人でも関係なく担当職務の内容に応じて賃金が決められる一方、会社が自由に配置転換することはできません。

 一方、メンバーシップ型雇用とは日本の雇用システムの特徴を表している理念型です。契約は職務ではなく、会社の一員という立場にひもづいています。そのため、職務が同じでも、原則的に人の能力に応じて定められた職能等級などで賃金は変わりますし、会社が自由に配置転換することもできます。

 日本の会社で導入されたと言われるジョブ型雇用の内実を確認すると、その多くは担当職務を限定しているメンバーシップ型雇用です。会社は配置転換権を持ち、職務内容より職能等級などを軸に賃金が決められています。

 実態はメンバーシップ型雇用であるにもかかわらず、ジョブ型雇用だと誤用して名称だけ独り歩きしてしまうと、解雇に必要な要件の違いといった制度の不備や課題が見えにくく問題が顕在化しづらいため、法整備が遅れることになります。

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