与野党の間で、就職氷河期世代の支援を訴える動きが活発化しています。政府は「就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、新たな支援に取り組み始めました。
就職氷河期という言葉は、すでに社会問題としての認識が定着している感があります。多くの国民がこの言葉に一定の共感や問題意識を持っていることを踏まえると、各政党の訴えは7月頃に予定されている参議院選挙に向けた動きであるようにも見えます。
就職氷河期世代とは、1993〜2004年の間に新卒で社会に出た人たちを指します。私自身もその層に該当し、就職活動の厳しさを肌で実感しました。バブル世代の先輩たちから聞く就活の様子とは大きく異なり、数年遅く生まれたという理由だけで生じた落差に理不尽さを感じた記憶があります。
ただ、就職氷河期に生じた不遇さに焦点が当てられて課題が可視化されたこと自体には意義を感じるものの、課題を解決するにあたってその世代にクローズアップした支援を行うのは的外れでしかありません。
就職氷河期世代の影に隠れて、不遇を受けてきた「超氷河期」とも言える層の存在が、果たしてどれほど認識されているでしょうか。
就職氷河期世代の支援をめぐる大きな間違いを3つ指摘し、問題の本質がどこにあるのか考えてみたいと思います。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
文部科学省が発表している学校基本調査をもとに四年制大学の卒業者にフォーカスして確認すると、平成に入った後の就職者割合は1991年の81.3%をピークに下降線をたどっています。下のグラフは、平成元年である1989年から就職氷河期世代の最後とされる2004年までの推移です。
就職氷河期世代が被った最大の不遇は、未だに年功序列や終身雇用の影響が色濃く残る雇用システムにおいて、社会の入り口への到達が困難だったことにあります。景気悪化で門戸が狭められ、いわゆる正社員としての就職を希望してもかなわず就職浪人となったり、不本意ながら契約社員やアルバイトといった非正規雇用と呼ばれる働き方を選ばざるを得なかった人がたくさんいました。
正社員として就職できれば、長期安定雇用が保証されるだけでなく毎年賃金が上がっていきます。社会に出ると同時に社会保険に加入し、定年までコツコツと働き続ければ、厚生年金も満額受け取ることが可能です。そんな安定した人生を送ることが難しい人が他世代より多い就職氷河期世代に焦点が当たったことで、日本の雇用システムが抱えている根本的な瑕疵(かし)が浮き彫りになりました。
新卒で社会に出るタイミングでつまづいてしまうと、途中からでは年功序列や終身雇用といった仕組みでガチガチに固定された正社員のレールに乗るのは大変です。もし正社員として中途入社できたとしても、昇進昇格などキャリア形成面において新卒入社組と全く同じレールに乗れるとは限りません。社会の入り口でその後の人生が決められてしまうとさえ言えるほど、融通のきかない構造的欠陥です。
ところが、そんなまさに支援を必要としていたタイミング、1993〜2004年からはすでに20年以上の年月が経過しています。就職氷河期世代の人たちは、通り過ぎた日々をもがきながらも人生と向き合い、今日まで生き抜いてきました。
そんな失われた時間は、戻しようがありません。何も支援がないよりはあった方がよいという面はあるものの、あまりにも遅きに失しました。解決しようにも、後づけでできることには限界があり、いまさら取り返しがつかないこと。それが1つ目の間違いであり、就職氷河期世代の不遇さに焦点が当てられたことによって得られた最大の教訓です。
各政党が有効性に疑問符がつくことを承知の上で声高に支援をうたっているとしたら、団塊ジュニア層を含むボリュームゾーンの支持を取り付けようと、受けの良さそうな就職氷河期世代という言葉を利用しているようにさえ映ります。
もう1つの間違いは、就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議に提出された資料に示されている課題を見ると分かります。
1.就労・処遇改善に向けた支援
2.社会参加に向けた段階的支援
3.高齢期を見据えた支援
また、課題ごとに示されている主要な施策内容は以下の通りです。
(1)相談対応等の伴走支援
(2)リ・スキリングの支援
(3)正規就労を受け入れる事業者の支援
(4)家族介護に直面する者の継続就労の支援
(5)公務員としての採用及び業種別の就労支援
(1)社会とのつながり確保の支援
(2)就労準備の支援
(3)柔軟な就労機会の確保の支援
(1)就業機会の確保
(2)家計改善・資産形成の支援
(3)住宅確保の支援
これらの多くは、確かに必要かつ有意義な支援でしょう。しかしながら、これらの支援を必要としているのは何も就職氷河期世代だけではありません。それなのに、あえて就職氷河期という名称を用いて世代の括りに焦点を当てることが2つ目の間違いです。
就職がうまくいかず、つらい思いをした人は、就職氷河期世代以外にも多数存在しています。世代に特化して施策を打つ必要があるのは、その世代だけが不利益を被っていることが明らかな場合です。例えば、はしかや子宮頸がんなどのワクチン接種状況のような場合は世代による明らかな差異があります。それは、世代間で制度が違うために生じた差異です。
しかし、就職氷河期は世代間で制度が違うために生じたのではありません。社会の入り口に到達することが困難だった人は多かったものの、同じ世代の中にもうまくいった人とそうでない人とが混在しています。就職氷河期世代にも、安定企業に入社できた人たちはたくさんいるのです。
逆に、就職氷河期世代以外にも社会の入り口に到達するのが困難だった人は多数います。政府の関係閣僚会議には就職氷河期世代“等”とありますが、あえて就職氷河期世代という名称を用いて支援を打ち出す必要性などありません。不必要に世代の概念を持ち出すことで、かえって焦点が当たっていない層との間で不公平を生む懸念すらあります。
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