「超・氷河期世代」の存在を知っていますか? 支援策の3つの間違い働き方の見取り図(2/2 ページ)

» 2025年05月12日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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不可視化される「超・氷河期世代」の存在

 そして、3つ目の間違いは、就職氷河期世代という枠組みにばかり注目が集まることで、他の困難な立場にある層が見落とされかねない点です。以下は、再び学校基本調査をもとに、就職氷河期世代とされる初年の1993年から直近2024年までの就職者割合をグラフにしたものです。

1993〜2024年の就職者割合(学校基本調査をもとに筆者作成)

 就職氷河期には該当しないことになる2005年の大学卒業者の就職者割合は59.7%で、6割にも届きません。一方、就職氷河期世代に含まれる1993年の就職者割合は76.2%です。2005年は、それより就職者割合が16.5ポイントも低いことになります。むしろ、超氷河期と言ってもよいレベルです。

 さらに先の年まで見ると、就職者割合が76.2%を下回る世代はリーマンショック時代を含む2005年から2017年までの13年間に及びます。そんな、「第二氷河期世代」とも言える層や、1998年から2006年、2010年から2012年のように1993年より10ポイント以上も就職者割合が低い「超氷河期世代」とも言える層が存在しているのに、就職氷河期世代の陰に隠れてしまっている感があります。

 コロナ禍発生後の2021年から2023年にかけても、76.2%を下回っています。就職氷河期世代にばかり焦点が当たることでこうした層の存在が陰に隠れてしまい、不遇な状況の発見が遅れたり支援策が後手に回ったりしないか心配です。

 そもそもの問題は、先ほども指摘したように日本の雇用システムが抱えてきた構造的な欠陥にあります。年功序列や終身雇用といった雇用慣行は、経済発展と人口増加が同時に進んでいた高度成長期には適していた面もあるかもしれません。

 しかし、バブル崩壊後に就職氷河期世代が生まれたように、経済環境が悪化するとその硬直性から生涯にわたって不遇な世代を生み出してしまうことになります。雇用システムが変わらないまま続いていくと、今後も環境が悪化するたびに新たな氷河期世代が生み出されることになりかねません。

 社会との最初の入り口でつまづいてしまったとしても、人生のどの時点からでもやり直しできるような柔軟な仕組みを構築するには、日本の雇用システムを総じて見直す必要があります。それは、正社員と非正規雇用のどちらかといった硬直的な二元論から脱却し、多様な雇用形態を広げて個別最適化を進めたり、雇用形態の多様化に合わせて解雇ルールを整備するといった、雇用システムのグランドデザインを描き直すことを意味します。

 就職氷河期世代という言葉は、日本の雇用システムの構造的欠陥を明らかにしたことで役割をすでに終えたように思います。政府が就職氷河期世代等支援として掲げる「就労・処遇改善に向けた支援」「社会参加に向けた段階的支援」「高齢期を見据えた支援」を必要としている人は、全ての世代にいます。

 にもかかわらず、選挙が近づくと思い出したかのように就職氷河期世代支援の声がかまびすしくなる状況には違和感を覚えます。

 本来取り組むべき支援は、特定の世代だけを対象にして聞こえがいい言葉を並べた施策にとどまるものではなく、就職氷河期世代に焦点を当てることで浮き彫りとなった課題を踏まえ、就職氷河期世代も含む全国民のために、雇用制度を抜本的に改革することではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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