新時代セールスの教科書

売上比率「5割」に伸長 IT強化に意気込むキヤノンMJが、デジタル営業に取り組むワケ前編

» 2025年08月22日 06時00分 公開

 openpageの藤島誓也社長が、営業DXのトップランナー企業と対談する本連載。第1回は、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)にインタビューを実施した。

 キヤノンMJはこれまでカメラやプリンター、複合機などのハード商材を主力にビジネスを展開してきた。これらキヤノン製品事業に加えて、継続して「ITソリューション事業」を強化しており、売上構成比は5割を超える。

 サービス提供型ビジネスの拡大やソリューション営業の強化が求められる上に、労働力人口は減少していく。そんな中でも、効率的な営業活動を実現するために、同社では営業DXに取り組んでいる。今回は林寛之氏(キヤノンMJ ソリューションデベロップメントセンター部長)へインタビューした。

※openpageは2024年8月からキヤノンMJと資本業務提携し、営業DXを推進するべく、その手段の1つとしてデジタルセールスルームの活用を強化している。


 カメラやプリンターで知られるキヤノンの国内マーケティングを担うキヤノンMJでは、 2025年上期のITソリューション事業の売り上げ比率が5割を超えている。同社はITソリューション事業を強化する中で、サービス提供型事業モデルへの移行にも取り組んでいる。

 なぜキヤノンMJは、ITソリューション事業を拡大させているのか。同社はITソリューション事業の売り上げを伸ばしていくために、人による営業活動に加えて、「顧客へサービスをスムーズに迅速に届ける仕組み」の一環で営業DXの推進も強化してきた。

 キヤノンMJ ソリューションデベロップメントセンター部長の林寛之氏(デジタルドキュメントサービス企画部)に話を聞いた。聞き手はopenpage 代表取締役の藤島誓也氏。

IT強化で売上比率は「5割」に伸長 何が奏功した?

藤島氏: キヤノンMJといえば、多くの人がカメラやプリンターを思い浮かべると思います。しかし、実際はITソリューション事業が売り上げの5割を超えているそうですね。

林氏: 多くの方にはまだハードウェアのイメージが強いと思いますが、実は1990年頃から法人向けITソリューション事業に取り組んできた歴史があります。現在は「未来マーケティング企業」を目指しており、2025年上期のITソリューション事業の売り上げ比率は5割を超えています。

 具体的には、デジタルドキュメントサービスやローコード開発プラットフォーム、映像ソリューションサービスなどを展開しています。

(提供:キヤノンMJ)

藤島氏: キヤノン製品事業の強さを維持しながらITやデジタルの新事業も大きく伸ばしていることに驚きました。キヤノンMJが掲げる「未来マーケティング企業」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

林氏: キヤノンMJグループでは2024年にパーパスを制定しました。「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」──これが当社の目指す方向性です。お客さまの期待に応えるだけではなく、期待を超える。顕在化していない潜在的な課題に対して、未来の技術で解決策を提供していくということです。

 キヤノン製品をはじめとしたハードウェアを持っている強みを生かしながら、SI(システムインテグレーション)機能やサブスクリプションサービスも組み合わせることで、お客さまの課題をより広く解決できることが特徴です。

藤島氏: ITソリューション事業ではサービス型のビジネスを強化する必要があったと聞いています。そのために新たな組織も立ち上げられたそうですね。

林氏: 当社ではお客さまの層ごとに異なる課題やニーズを踏まえ、顧客起点の経営課題とキヤノンの強みのある領域を掛け合わせて、それをサービス型事業モデルで提供していく体制を整えています。

(提供:キヤノンMJ)

 営業組織は、コンスーマ(個人)、エンタープライズ(大手企業、準大手・中堅企業)、エリア(中小企業)、プロフェッショナル(専門領域)の4つのセグメント体制を採用しています。この体制に加え、製品事業ごとに分かれている商品企画本部のマーケティング部門間の連携を強化するため、ソリューションデベロップメントセンター(以下、SDC)が設立されました。

(提供:キヤノンMJ)

高い営業力を誇るも 社会的な「労働力人口減」に強い危機感

藤島氏: キヤノンMJでは、営業DX推進にも取り組まれていますが、狙いをお聞かせください。

林氏: 今後やってくる8掛け社会(※)を見据えても、「人がいる前提で行ってきたことの再現は難しくなる」との危機感を持っています。そこで、デジタルの力も活用し、労働力人口が減る中でも、強い提案力と営業力のある会社であり続けたいとの思いで、いわゆるセールステック、営業DXが必要と認識し、取り組みを開始しました。

※「8掛け社会」:2040年には労働力人口が現在の8割になると予測されており、「8掛け社会」と言われている

(提供:キヤノンMJ)

林氏: 実は当社は、1990年代から2000年代にかけて日本経済新聞社「日経企業イメージ調査」にて、「営業力・販売力が強い企業」ランキングで常に上位に位置するなど、長年にわたって高い営業力を誇ってきました。

 現在も「営業力のある会社」と自負していますが、人手による営業活動が主流となっており、将来を見据えるとこれまでのような対応は難しくなると考えています。

 というのも、サービス型事業モデルは、サブスクリプション型のためどうしても月々の売り上げは低くなる傾向があります。一件あたりの初期の売り上げが少ないため、SI型の大型案件のように多くの人的リソースを集中させることが難しい状況です。

 効率的な営業活動のためには、多くの見込み客に少ない回数のアプローチで対応する必要があります。そのため、サービス型事業の全案件に対して営業担当者が何度も「足を使って提案していく」というこれまでのやり方では、継続性を維持することが難しいと考えました。そこで、商談プロセスの初期アプローチ段階をデジタル上で実行できれば、より効率化すると考え、営業DXに取り組んでいます。

先発完投型に加えて、リレー方式も

林氏: デジタルの力も活用して、労働力人口が減る中でも強い営業組織でありたい──。これは多くの企業に共通する課題のはずです。だからこそ、自社での取り組みを強化するだけでなく、openpageと協力して、B2B営業のデジタル化・営業DXに取り組む仕組み作りと、共同での新規事業開発をスタートさせました。

藤島氏: 林さんには、2023年4月の営業DXの展示会でお会いしました。セールステクノロジーの情報収集をされていて、米国の最新動向やテクノロジーへの感度の高さに、すぐに「波長が合う人だ」と感じました。

林氏: 私もopenpageの考え方に強く共感したことを覚えています。当時、当社では営業組織の成果を最大化するための仕組み作りである「セールスイネーブルメント」や営業DXについてリサーチしていました。日本は人口減少という社会課題に直面しており、営業人員も減少していく中で、当社としても何か打ち手を出せないかと考えていました。

 最初の30分の会話で、「この企業と仕事をしたらお互いの会社のアセットを生かして、より大きな仕事を仕掛けられそう」と直感しました。このような先進的な会社と共にわれわれも成長したいと考えました。

藤島氏: キヤノンMJの皆さんは非常に感度が高く、インサイドセールスやデジタルセールスに意欲的で、デジタルを活用した新しい商談プロセスを積極的に模索されています。林さんがよく野球に例えて説明されるのですが、「7回表までデジタルセールスで顧客との関係を深めて、しっかりと信頼関係を築いた状態で営業担当者に送客する。営業担当者はより質の高い商談に集中できる」というイメージですね。

林寛之氏(キヤノンMJ ソリューションデベロップメントセンター部長)(提供:キヤノンMJ)

まとめ

 先発完投に加えて、リレー営業でも成果を上げる組織を作る──。同部門が目指すスタイルは、デジタルセールスで顧客関係を十分に育成してから営業に引き継ぐ仕組み作りだ。野球でいえば、従来の「先発完投型」に加えて、「7回まではデジタルセールスで顧客との信頼関係を構築し、8回から営業担当者がより質の高い商談に専念する」体制である。具体的にどのような取り組みを行ったのか、後編で詳しく解説する。

筆者プロフィール:藤島 誓也 株式会社openpage代表取締役

2018年株式会社openpageを設立。顧客取引のDXソリューション「openpage」を提供、米国流のカスタマーサクセスやセールステックについて最先端の情報を国内で広く啓蒙。2024年にはキヤノンマーケティングジャパン株式会社と資本提携を行い、国内大手企業のデジタルセールス戦略推進を支援している。著書に「実践カスタマーサクセス BtoBサービス企業を舞台にした体験ストーリー」(日経BP、2023年)。ITmedia ビジネスオンライン「新時代セールスの教科書」にて連載中。

HP:https://www.openpage.jp/


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