新時代セールスの教科書

「ソリューション営業」はもう古い! これからの時代に求められる「インサイト営業」の有効性前編(1/4 ページ)

» 2024年05月17日 10時00分 公開
[榎本瑞樹ITmedia]

著者プロフィール:榎本瑞樹(双日テックイノベーション株式会社)

双日テックイノベーション(旧 日商エレクトロニクス)に入社後、営業部長、マーケティング部長を経て、シリコンバレー拠点の駐在社長として、リテール、フィンテック、Web3をテーマに新規事業開発、オープンイノベーション支援、米国スタートアップ投資を手掛ける。2022年帰任後、エンタープライズ営業・マーケティング組織の統括責任者としてクラウド・データ利活用領域の事業成長を牽引。アカウント営業のセールスイネーブルメントに取り組んでいる。

2023年、GRIT&ME合同会社を創業。セールスイネーブルメント、新規事業開発、デザイン思考ワークショップなどコンサルティング、人材育成研修を提供。

iU情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。 Stanford Graduate of Business, Design Thinking,

University of California Berkely,Venture Capital Executive Program

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Linked in:https://jp.linkedin.com/in/mizuki-eno-enomoto-4735664/ja


 日本では長年、ソリューション営業が正義とされ、課題解決型の営業アプローチが求められてきました。上司から「顧客の課題を聞き出せ、ニーズを深堀りしろ」などと言われたことがある読者も多いのではないでしょうか。

 しかし、ビジネス環境が急速に変化する今の時代では、顧客が認識している範囲の課題に対してのみ提案する営業スタイルでは、勝ち残ることはできません。特に、大企業や公的機関の大規模な組織をターゲットにするエンタープライズ営業においては、単品受注を獲得するだけでなく、複数の商材を複数の部署やグループ企業にクロスセルして、LTV(Lifetime Value:生涯価値)の最大化を図ることが求められています。

 昨今米国では、市場動向や顧客状況の力学に迅速に適応し、顧客が自覚をもしていない未知のニーズを解き明かす「インサイト営業(Insight Selling)」が新たな営業スタイルとして注目を集めています。日本で正攻法とされていたソリューション営業は限界を迎えているのです。

「ソリューション営業」はもう古い? 米国で聞いた衝撃的な言葉

 私は日商エレクトロニクスに1997年に入社し、シリコンバレーで生まれた最先端テクノロジーやビジネスモデルを提供しているスタートアップをいち早く日本市場に持ってきて、日本の顧客に提供するビジネスに携わってきました。

 「ソリューション営業の終焉、そしてインサイト営業の台頭」――この衝撃的なフレーズを聞いたのは2015年。当時営業部長だった私が、サンフランシスコで開催されたSales2.0 Conferenceを視察した時のことでした。

(筆者作成)

 当時の米国市場は、B2Bマーケティングにおいてもデジタルの波が押し寄せ、マーケティング自動化の米Marketo(現Adobe)やHubspot、SalesforceなどのSFAもプレゼンスを発揮していました。今でいうThe Model型組織(マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの機能別の協業組織)のセールスオペレーションの有効性が話題となっていて、とても新鮮かつ刺激的だったことを覚えています。日本でThe Modelが翻訳され世に出回ったのは、それから4年後。今思うと日本の営業はだいぶ遅れているのだなと思います。

 当時の私はちょうどプロダクト営業から脱却し、ソリューション営業に転換しようと息を巻いていました。私はスタートアップのプロダクトを愛するあまりに、プロダクトの製品説明を行い、価値を語り、競合製品との比較をして差別化要因にする――いわゆる「プロダクト営業」スタイルが染みついていました。

 しかし、類似した製品やサービスが増え、同じ製品でも複数代理店が取り扱い、製品機能や利便性のみでは差別化が難しく、薄利でのビジネスを強いられるように。「これからはソリューション営業だ! プロダクト愛を語るだけではだめだ!」と、顧客を主語とした課題解決をするソリューション営業スタイルへの変革に意気込んでいたのです。

 そんな私にとって「ソリューション営業はもう限界がきている。ソリューション営業は終焉するんだ」というフレーズは、鈍器で頭を殴られたくらい衝撃が大きかったことを覚えています。

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