そしてもう一つが、廃食油を水素化処理して作られるHVO(水素化植物油)だ。こちらは炭素と水素だけの分子構造を持ち、軽油と完全に互換性があり、ドロップイン燃料として利用されている。
このHVOに近い存在のバイオ燃料にSAF(持続可能な航空燃料)がある。原料も製法もほぼ同じであることから、どちらも製造できる半面、競合する燃料だけにHVOは不利だ。ただでさえ燃料の消費量が膨大で公共性の高い航空機に使われるSAFに対し、需要でもコストでも対抗するのは難しい。
そもそもSAFの原料としても廃食油はまったく足りない。そのためバイオエタノールをいかに量産するかがバイオ燃料供給の未来を決めることになりそうだ。
国内でHVOを用いたバイオディーゼル燃料「サステオ」を供給するユーグレナもこうした課題をすでに理解している。マレーシアの国営企業ペトロナスと合弁会社を設立し、HVOやSAFを生産するためのプラントを建設するプロジェクトを進めている。将来的には10万キロリットルのHVOを日本に輸出する計画だ。
左から軽油、HVO51%のサステオ、FAME5%を軽油にブレンドしたB5、FAME100%のB100、HVO。サステオが軽油とHVOをブレンドしているのは、税法上の問題で軽油引取税の基準に比重を合わせているため。軽油引取税を払わないと脱法軽油となりかねないための措置だ(筆者撮影)日本国内では廃食油の回収と精製に限界があり、原料を輸入に頼るのであれば日本で生産する意味は薄くなる。東南アジアではパーム油が豊富に採れ、これを原料にHVOを生産することも技術的には可能だが、新たな環境破壊につながる恐れもあり、バージン素材からのHVO生産は想定していないという。
理想は微細藻類による油の生成からのバイオディーゼル精製であろう。大気中のCO2を吸収して体内に油をため込む藻類は、さまざまな課題を一気に解決できるポテンシャルがある。
筆者はこの分野の研究をしている大学や企業などを10年以上にわたって取材しているが、技術的にはかなりのレベルまで開発が進められているものの、実用レベルの供給量を生産できるプラント建設にたどり着いた企業や団体はいまだに現れていない。
しかし、ユーグレナ バイオ燃料事業部 事業企画課の石田悠貴課長によると、培養池によるCO2吸収での生育では、広い敷地が必要なだけでなく、時間もかかることから、餌による生育も検討しているそうだ。
またユーグレナ(学名ミドリムシ)以外の藻類による油の生成も研究しているという。これまでの報道では、SAFの供給以降、目立った情報がなかったので、進捗(しんちょく)状況が分かりにくかったが、社内では選択肢を広げて研究開発を行っているようだ。
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