リテールメディアは「店舗にスクリーンを並べること」ではない 「体験」設計で成果を生む方法Marketing Dive

» 2025年09月09日 06時00分 公開
[Harvey MaMarketing Dive]
Marketing Dive

 米会員制大型マーケット「Sam's Club」のハーヴェイ・マー(Harvey Ma)氏は、店舗内のリテールメディアの未来について「単にスクリーンを並べることではない」と指摘する。

 「リテールメディアは、店舗とデジタルをつなぎ、統合的なメディアエコシステムを築くことが求められる。重要なのは顧客中心の体験を設計し、真のリテールエクスペリエンスネットワークと呼べる仕組みを構築すること。その成功は、購買体験を向上させ、かつ測定可能な成果を生み出す瞬間に表れる」

 Sam's Clubの会員アクセスプラットフォーム(MAP:Member Access Platform)の責任者に就任して1年、マー氏は店舗内リテールメディアに関する議論が急速に進化する様子を見てきた。小売業者は、店舗を単なる販売の場としてではなく、消費者を有意義に引きつけ、広告による成長を測定可能にする「体験のプラットフォーム」として捉えている。

 この発想は、一部の小売業者に限ったものではなく、業界全体の潮流である。デロイトの「2025年米国小売業界見通し(外部リンク/英語)」によれば、買い物の約8割はいまだに店舗で行われている。また、小売業幹部の3分の1以上が「店舗体験の向上」を成長の最優先事項の一つに挙げている。多くの小売業者がタッチスクリーンやバーチャルリアリティー(VR)、拡張現実(AR)など、ブランド体感を強化する技術に投資している。

 依然として、店舗は最も没入感があり影響力のあるタッチポイントだが、デジタル化が最も遅れている領域でもある。リテールメディアは実店舗とデジタル店舗のギャップを埋め、顧客体験を向上させ、棚やスクリーンを超えた一体感のあるメディアエコシステムの構築が必要だ。

リテールメディアは「店舗にスクリーンを並べること」ではない

 業界全体でリテールメディアはメディアなのかリテールなのかという議論は本質を外している。実際にはその両方であり、リテールメディアの強みは、メディア施策とマーチャンダイジング(以下、MD)戦略がうまく連動し、効果を数値化できる一貫した購買体験を生み出せる点にある。

 パッケージや棚のレイアウト、サイネージ、商品構成など、店舗内のあらゆる要素が、消費者が「何を見て、検討し、購入するか」を形づくる役割を果たしている。これらは独立して機能するのではない。棚に並んでいる商品が広告の効果を左右し、同様にキャンペーンデータが「より目立たせるべき商品」を明らかにする。こうしたインサイトの交換は双方向に行われる。

 パッケージは、商品の認知度に影響を与える。棚にあるだけでメディアへの印象にもつながる。メディアデータが示す購買意欲や機会損失に関する情報を活用することで、品ぞろえの決定はより的確になる。ターゲティングやA/Bテスト、リアルタイムフィードバックといったデジタルマーケティングツールは、オンラインだけでなく店舗内でも同様に有効である。

 消費者はマーケティングとMDを別々のものとして体験しているわけではない。目の前にあるものを見て、役立つものや関連性のあるものを選び、次に進む。この現実を理解し、それに基づいた仕組みを作る小売業者やブランドは、その瞬間の意思決定により効果的に影響を与えられる。

つながりとエンゲージメントの重要性

 最も効果的な店舗内リテールメディアは、デジタルタッチポイントと統合し、消費者をリアルタイムで導くことで買い物の流れをスムーズにする。

 重要なのは「受動的メディア」と「能動的メディア」の適切なバランスだ。タッチポイントは、消費者に負担をかけずに情報を与えたりアイデアを喚起したりするほうが効果的である。

 一方、QRコードのスキャンや商品の試食、実演のように、消費者参加型の販売はより大きなインパクトを生むが、やりすぎは不快感を与えるため注意が必要である。

 優れた体験は全体的なMD戦略と整合しており、全てのタッチポイントが意図的かつシームレスに感じられる。例えば、自宅で商品を調べた顧客が、店舗でそのカテゴリーに近づいたときにリマインダーや個別のプロモーションを受け取るケースや、モバイル決済で購入を済ませながら新しい商品を発見するケースである。

 単にインタラクティブスクリーンを設置したり、アプリに新機能を追加したりするだけでは不十分だ。店舗内外の全てのタッチポイントを「顧客とつながる機会」として捉える必要がある。試食コーナーやデモは、購入前に商品を見て、触れ、試せる場を提供し、広告主にとっては商品を顧客の手に直接届ける手段になる。

 例えば、重点SKU(在庫管理単位)や季節需要に合わせた新商品体験がMD計画と連動すれば、単なる「エンゲージメント」を超えて、棚から商品を早く動かし、混雑したカテゴリーでの差別化を実現できる。

 さらに、店舗内や駐車場のような周辺スペースに設ける没入型のブランドゾーンは、活気に満ちた予想外の瞬間を生み出し、発見や購買を促す。試食テーブル、実演、ポップアップイベントは、消費者を驚かせ、会話を生み、予定外の商品を紹介するとともに、広告主に「体験が成果を生んだ」明確な証拠を与える。

スクリーンファースト戦略の問題点

 店舗内リテールメディアは、スクリーンを増やすだけではブランドロイヤリティーを築けない。スクリーンは一方通行の情報発信にすぎず、行動を促す価値や消費者との有意義なつながりを生み出せないまま「背景ノイズ」と化してしまう。

 一方、スクリーンとは異なり、体感は視覚や聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感に訴えかけられる。この多感覚の要素こそが、記憶に残る瞬間を創造し、再来店や購買につながるきっかけになる。

効果測定

 本当の価値を提供するには、オンラインやアプリ、店舗内のデジタル・物理的なタッチポイントを統合して「測定可能な成果」と結び付けることが重要だ。顧客ジャーニーをマッピングし、どの段階で意思決定が行われるかを把握することで、売上増加や再来店につながる体験を設計できる。

新しい標準の構築

 小売業者は今や、店舗を単に商品を売る場としてではなく、消費者を引きつけ、広告効果を測定できる「体験のプラットフォーム」として捉えている。パッケージや棚の配置、デジタルエンゲージメントを連動させることで、消費者の行動を変え、信頼を築き、成果を生み出す。業界を前進させるには、メディアとMDの間にある溝を埋め、体験を包括的に考えることが必要だ。

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