なぜ20年間も新店舗を出さなかったのか。山本常務は「(新店舗を出す前の)“フェーズ”があった」と説明した。「最初は統合直後だったので(2005年の三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスの統合)、重複店舗の統廃合を進めて効率的な体制を作ることが優先だった。その後、マイナス金利政策の影響が大きくなった。預金量が圧倒的に多い当行にとって、金利が付かない世界では、この預金を管理・維持するコストばかりかかり、逆に経営の足かせになる状態だった」
三菱UFJ銀行の個人預金残高は90兆円を超える。ゼロ金利下では、この巨額の預金から運用益を得られない一方で、店舗維持費や人件費などのコストは変わらずかかる。預金が多ければ多いほど、収益性が悪化するという皮肉な構造だった。
山本常務は「リテール部門単独で見ると収益が上がりにくい。店舗数を大幅に削減し、経費と収益の比率を改善しないと、リテール事業の維持自体が難しい世界があった」と、20年にわたる苦境を振り返る。実際、メガバンク各行は2000年代以降、店舗の統廃合を加速させ、コスト削減に奔走してきた。
しかし、2024年3月の日銀によるマイナス金利解除で潮目が変わった。「金利が付く世界になって、ようやくこの90数兆円の預金が当行の強みになってきた」。山本常務の声に力がこもる。預金と貸出の金利差(利ざや)で収益を上げるという、銀行本来のビジネスモデルが復活したのだ。
「金利のある世界になったことの影響は非常に大きい。収益化がしやすくなり、資産運用のニーズも高まっている。デジタル化が進む一方で、大切な資産の相談は対面でしたいというニーズもあらためて顕在化している」
「攻勢に打って出る」。山本常務は何度もこの言葉を繰り返した。20年間の守りから、一転して攻めへ。では、出遅れた三菱UFJ銀行はどのような戦略で巻き返しを図るのか。その答えが、この日オープンした「エムットスクエア高輪」に凝縮されている。
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