金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
「似ているなとは、われわれもちょっと思っている」――三井住友カードマーケティング本部長の伊藤亮佑執行役員が、三菱UFJの新サービス「エムット」について語った言葉である。控えめな表現の裏には、競合への敬意と警戒心がにじむ。
日本の金融史上かつてない、メガバンク同士の真正面からのポイント還元競争が始まった。先行者として600万口座を獲得したOliveに対し、個人預金93兆円という圧倒的資金力を武器に三菱UFJが追撃する。三菱UFJが6月に打ち出した新金融サービスブランド「エムット」。木村拓哉と石原さとみが微笑む巨大広告には「最大20%ポイント還元」の文字が躍る。この数字は、先行するOliveが掲げる「最大20%還元」と偶然の一致ではない。両社が繰り広げる「20%」という数字の裏で、一般消費者を取り込もうというメガバンク同士の戦いが静かに火ぶたを切った。
両社の「20%還元」はどのような仕組みで実現されるのか。Oliveの還元率は階段構造で設計されている。基本還元率0.5%からスタートし、対象店舗でのスマホタッチ決済により6.5%が上乗せされ、計7%となる。ここにVポイントアッププログラムの最大8%、家族登録による最大5%(1人につき1%)、各種サービス利用による最大3.5%が加算される仕組みだ。
この複雑な構造は、顧客を同社のエコシステム内に囲い込むための巧妙な設計である。三井住友銀行の住宅ローンなど中核的な金融サービス、円預金の金額、外貨預金、SBI証券の利用、三井住友カードのローンなど、さまざまなサービスの利用でポイントアップする仕組みだ。実際にはこれらすべてを合計すると20%を超える還元率になるが、景表法の定めで最大20%となっている。
一方、三菱UFJのエムットには、Oliveの設計を徹底的に研究した形跡が見える。基本設計は驚くほど類似しており、対象店舗での7%還元を土台に、グループサービス連携による段階的な上乗せで最大20%を実現する。
具体的には、MUFGカードアプリへの月1回以上のログインで0.5%、1カ月合計利用金額5万円以上で0.5%といった、カードサービスの利用で最大3.5%を還元。さらに三菱UFJ銀行の給与受取口座設定で1.0%、三菱UFJダイレクトへのログインで1.0%など、MUFGグループ各社のサービス利用で最大4.5%を還元する。
加えて、「特定のサービス」のカード払い登録により1登録ごとに1%、最大5つの登録で5%の還元率アップを設定。Apple各種サービス、ABEMAプレミアム、Hulu、日経電子版、本の要約サービスflierなど、生活・エンターテインメント関連サービスとの幅広い連携で顧客の囲い込みを図る。
つまり、20%還元達成には両社の複数サービス利用が必須となる。Oliveは三井住友銀行の各種金融サービスに加え、PayPay連携、V-Trip、ヘルスケアポータルといった非金融サービスとの「つながり」を強化し、エムットは銀行・証券・カードの「つながり」を軸に据える。単なる還元競争ではなく、エコシステム構築競争の様相を呈しているわけだ。
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