では、K-POPのMVが多く再生される裏側には、どのような仕掛けがあるのだろうか。林氏は「K-POPのMVは音楽を聴くだけでなく視聴するという楽しみ方」と話す。その象徴の一つが、MVのどの場面を切り取っても、1枚の絵のように映えるビジュアルだという。アイドルの衣装やメークは、新たな流行を生み出すという面でも大きく注目される。
韓国では、映画に近い手法でMVが制作されている。レーベルがMVの世界観を設定し、外部の映像制作会社が具体的なイメージを作成する。レーベルとのやりとりを重ねて、撮影におけるメークや衣装、ロケーションから、編集・色調補正まで徹底的に作り込まれるそうだ。林氏はMV制作について「1つの作品を生み出しているとも言える」と指摘する。
また、MVのストーリー性や世界観の徹底も特徴的だ。BTSのアルバム「花様年華」では、アルバム3部作を通じて一貫した物語が描かれ、ファンの考察を呼んでいる。韓国の大手アイドル事務所SM ENTERTAINMENTでは、所属アーティスト全体で「SMCU」(SM Culture Universe)という共通の世界観を設定。女性アイドルグループaespaの曲に登場する「KWANGYA」(クァンヤ)という仮想世界は、同事務所に所属する他のアイドルグループNCT Uの「90's Love」や、EXOの「Don't fight the feeling」などの歌詞にも登場する。
こうした映像美や世界観の設定は、ファン自らの発信にもつながっているという。YouTubeのコメント欄では「何分何秒のこの表情が好き」と具体的なシーンについて語り合ったり、SNS上でMVや歌詞について考察したりと、音楽を“見る”という楽しみ方が広がっている。
さらに、K-POPでは1つの楽曲に対して複数の映像コンテンツが公開されることも珍しくない。正式なMVの前に公開されるトレーラー映像(予告動画)や、ダンスバージョンのMV、レコーディングやMVの撮影風景など、さまざまなコンテンツが次々と配信される。これらは、ファンがMVを見た時の反応を撮影して投稿する「リアクション動画」や「ダンスカバー動画」といった二次的な発信を促し、楽曲がSNSや動画プラットフォームでさらに拡散される。
日本から「BTS」は生み出せるか? 世界で戦えるエンタメビジネスの育て方
ビルボードジャパンが描く「音楽×データ×ライブ」の未来図 “日本発のコンテンツ”を世界へCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング