やる気のない部下をどう導くか、チームの士気をどう保つかといった課題に直結するのが「モチベーション」だ。これは仕事の成果だけでなく、職場全体の働きやすさを長期的に左右する重要な要素でもある。著書『モチベーションの問題地図〜「で、どう整える?」ため息だらけ、低空飛行のみんなのやる気』(技術評論社刊)で、モチベーション向上の考え方や具体的な行動を提言している関屋裕希氏に、「上司がついやりがちな、部下のやる気を奪うNG行動」について聞いた。
リーダー的役割のある人が部下のやる気を引き出し、プロジェクトを円滑に進め、職場環境をより良いものにするための工夫とは?
関屋裕希。東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座特任研究員。早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて勤務。専門は産業精神保健であり、ポジティブ心理学、組織心理学、認知行動療法等の知見を活用して、ワーク・エンゲイジメントを含む働く人のメンタルヘルス向上のため、研究活動と現場での実践活動を行っている。著書に『感情の問題地図〜「で、どう整える?」ストレスだらけ、モヤモヤばかりの仕事の心理』、『モチベーションの問題地図 〜「で、どう整える?」ため息だらけ、低空飛行のみんなのやる気』(技術評論社)がある。――仕事のスタートは、上司から部下への「指示」である場合がほとんどですが、指示の出し方次第では、部下のモチベーションを下げてしまうこともありそうです。
やる気を奪う指示の出し方は、大きく分けて5つあります。
まず1つ目は、曖昧すぎる指示です。「とりあえず作ってみて」「いったん出してみて」など、フワッとした指示だと「どこまでやっていいのかな?」と、迷っているうちに積極的に動けず、効率も下がってしまいがち。モチベーションが出る以前に、不安な状態に陥ってしまいます。
対策は、5W1H(Why:仕事の目的・意義、Who:担当者・関係者、When:時期・期限、Where:場所、How:手段)をその都度明確にして指示を出すこと。中でもWhyの部分はモチベーションに直結するので特に意識したいポイントです。
2つ目は後出し指示。「もっとこうしてほしかった」「そういうんじゃなくて」など、部下がやった作業を無駄にしてしまうパターンです。部下からすれば「最初に言って欲しかった」となり、やる気がぐんと下がってしまうわけです。実際にものがないと検討できないような仕事の場合は、例えば「6割ぐらい出来た段階で見せてね」と、あらかじめ中間チェックを設定しておくのもいいでしょう。完成してからやり直しをさせるよりは、モチベーション低下につながりにくいと思います。
そして3つ目が一方的な指示です。全部ガチガチに決まっていて、しかもそれが現場から見てベストではない場合、部下からすると意見を聞いてもらえないうえ、自立性も奪われているので、“やらされ感”が強まって、内発的なモチベーションが低下します。
その場合は、指示を出した後に「どう思う?」「もうちょっとこうした方がいいと思うところはある?」と一言聞けばいいのです。「現場的にはこっちの方がいいと思います」「じゃあ、そうしようか」という流れになれば、部下の意識はかなり違うはずです。
4つ目の適正無視の指示は、効率を優先してチームのメンバーの得意・不得意や元々の経験などを無視した指示をしてしまうことです。人は自分の強みを活かすほどモチベーションが高まるので、指示は基本的に適性を活かす方向が望ましいです。
そして最後の5つ目は、コロコロ変わる指示です。上司自身が上の人の顔色や発言に振り回されることで、部下の努力が空回りすると、どうしても意欲は低下してしまいます。部下からすれば「何を信じて仕事をすればいいんだろう?」と不安になり、積極的に動けなくなるというわけです。
経営層と部下との間で板挟みになっている管理職としては、指示出しの際にWhyを丁寧に部下に共有し、機密情報でない限りは上層部の会議で話し合われた方針などをチーム全体に開示しておくのがいいと思います。
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