近年、働き方の多様化や事業の拡大・再編などを背景に、オフィスの拡張や移転を検討する企業が増えている。多くの総務担当者にとって、オフィス移転は頻繁に経験する業務ではないかもしれない。しかし、オフィス移転は単なる「引っ越し」ではなく、企業の働き方を再定義し、企業文化を醸成し、さらには企業価値をも向上させる可能性を秘めた、きわめて戦略的な一大プロジェクトである。
そう考えると、まさに総務の腕の見せどころといえる。しかし、何から手をつければいいのか、どこまでが総務の役割なのか、不安を感じる方も少なくないはず。今回は、プロジェクトを成功に導くための思考法と実務のポイントについて、特に「総務だからこそできること」に焦点を当てて解説する。
オフィス移転は総務だけでは完結できない。経営層、人事、経理、情報システム、そして各事業部門の代表者を巻き込み、全社横断のプロジェクトチームで進める必要がある。総務は、その事務局として全体のハブ機能を担う。誰が、いつまでに、何を決定するのか。明確な役割分担と意思決定フローを最初に確立することが、プロジェクトを円滑に進める上でのポイントだ。
次いで、プロジェクトの全ての判断基準となるコンセプトを構築する。
など、経営課題と結びついた移転の「目的」を言語化するのだ。このコンセプトが、後の物件選定やオフィスデザインのブレない軸となる。
コンセプトを構築した後に着手するのは、現状把握と課題の洗い出しだ。今のオフィスの「現実」を直視してみよう。社員アンケートやワークショップを実施し「会議室が足りない」「執務スペースが騒がしい」「収納が不足している」「動線が悪く、他部署との連携が取りづらい」といった具体的な課題を徹底的に洗い出すのがおすすめだ。このファクトに基づいた課題リストこそが、新オフィスで解決すべき要件定義の基礎となる。
オフィス移転は、物件探しから契約、設計、工事、引っ越し、各種手続きまで、最低でも1年〜1年半はかかる。大まかなマイルストーン(物件決定、設計完了、工事開始など)を設定し、全体スケジュールを策定していこう。
同時に、賃料や仲介手数料、設計・工事費、什器購入費、引越し費用、ITインフラ構築費、そして忘れてはならない「旧オフィスの原状回復工事費」など、必要な費用をリストアップし、概算予算を確保することも不可欠だ。
おしゃれなカフェスペースや集中ブースといった、いわゆる「オフィスのデザイン」は、専門家であるデザイナーの力が大いに発揮される領域だ。もちろん総務も意見を出すべきだが、総務の本質的な役割は、そのデザインの「土台」と「血流」を創り上げることにあると留意しておこう。
総務の真価が問われるのは、目に見えないインフラの再構築。例えば、移転を機に書類の大規模な電子化と廃棄ルールを策定し、ペーパーレス化を断行する。固定電話を廃止し、クラウドPBXやIP電話に切り替えることで、場所に縛られない働き方を実現する。これらは単なるコスト削減ではなく、業務プロセスの変革そのものだ。また、災害時の事業継続を想定したインフラ(電源、ネットワークの冗長化、サーバールームのセキュリティーなど)を設計することも、企業の根幹を守る総務の重要な責務となる。
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