資金調達の選択肢として、日本でもすっかり定着したクラウドファンディング。アイデアや思いを持つ企業や団体が、共感する支援者とともにプロジェクトを進められる仕組みは、スタートアップの新商品から地域のまちづくり、さらには文化やスポーツまで幅広い分野に広がっている。
しかし、そのクラウドファンディングで必ずしも目標金額まで集められる保証はない。クラウドファンディングの成功率は、10〜30%とも言われ、目標未達により資金が調達できず、事業やプロジェクトが停滞してしまうことの方が多いのが実情だ。
このように成功事例が少ない中、現在までに約100件のクラウドファンディングの伴走支援(支援総額5億6000万円)を実行した経験を有するのが、クラウドファンディングを含むファンドレイジングの企画・運用支援をしている、かまくらさちこ事務所代表取締役の鎌倉幸子氏だ。その鎌倉氏にクラウドファンディングの極意とは何か、また成功事例やポイントを聞いた。
鎌倉幸子(かまくら・さちこ) かまくらさちこ株式会社代表取締役。青森県弘前市生まれ。アメリカ・バーモント州のSchool for International TrainingでIntercultural and International Management修士課程修了。公益社団法人での勤務を経て、かまくらさちこ株式会社設立。クラウドファンディングを中心としたファンドレイジング、社会的インパクトマネジメント・評価、組織基盤強化などのコンサルティングを行う鎌倉氏のクラウドファンディングの始まりは、東日本大震災で被災した陸前高田の仮設住宅に図書室を作るために挑戦したプロジェクトだった。目標150万円に対し、800人以上の支援者から約800万円を集めるという成果を上げた。それは当時の日本におけるクラウドファンディングでは、最高クラスの支援者数と支援金額だったという。
最近関わったのは、鎌倉氏がプロデューサーを務めた「国際赤十字・健康映画祭」にて「赤十字特別賞」を受賞した、五十嵐匠監督・映画『じょっぱり−看護の人 花田ミキ』だ。この映画は、戦中・戦後に懸命に人々の命をつないだ女性看護師の人生を掘り起こす物語であり、メディアにとっては商業的リスクが高いとされる芸術性の強い作品である。
五十嵐監督も「映画とビジネスは両立しない」と話すように、当初は資金調達が難航した。しかし、テーマの意義に共鳴した多くの支援者が、クラウドファンディングを通じて資金を拠出。結果として、目標金額500万円のところ1200万円まで集めた。映画は長く支持を集め、当初の公開から1年をすぎた現在も、東京都写真美術館などで公開中だ。
最大の支援金額1億2000万円を集めたのは、コングラントを活用した日本発祥の国際医療NGOジャパンハートが実施したカンボジアの病院設立プロジェクトである。
医療格差をなくし、貧困層の子どもたちに医療サービスを無償で提供するための支援だった。だが、このような高額の支援を集めるには、伝え方や広報活動の工夫が必要となる。プロジェクトには期限もあり、少額を集めているだけでは到底、高額の支援金を集めることは不可能だ。
そこで、「100万円寄付枠」など高額メニューを用意し、寄付者に「名誉会員ファウンダー」や「設立メンバー」といった肩書を与えた。結果として97人から高額寄付を集め、最終額を大きく押し上げたのだ。
高額支援者に対しては単なるリターンではなく、「社会に名前を刻む機会」を提示することが効果的だったと語る鎌倉氏。また、高額支援のプロジェクトでは、「人が人を応援する」という原理を強調し、活動そのものよりもプロジェクトに関わる医師の物語や課題解決の視点を前面に出すことに注力した。結果、1000人以上の支援者から、1億2000万円を集めることになった。
桁違いの資金を調達するにあたり、他にも特別な手法があったのではないかと思われがちだが、鎌倉氏は、「やっていることは、何ら他のクラウドファンディングのやり方と同じで、力を入れるところも変わらない」と語る。数多くのクラウドファンディングを成功させた、鎌倉氏のクラウドファンディングの極意とは何か。
クラウドファンディングには明確な成功パターンが存在すると語る鎌倉氏。単なるチェックリストではなく、いずれも「人が人を応援する」という本質に根ざしたものである。
(1)人のストーリーを前面に出す。人を深堀りする
「ECサイトが商品を売る場だとすれば、クラウドファンディングは人を応援する場。活動内容を説明するだけでは不十分で、『なぜこの人がやるのか』というストーリーを示すことが不可欠です」と鎌倉氏は語る。プロジェクトの内容や数字だけでは人は動かない。大切なのは物語である。
被災地での図書館設立プロジェクトでは、「失った街にもう一度本を届けたい」と願う地元司書の思いを軸に据えた。その姿勢に共感した人々が次々と寄付を寄せ、最終的に目標額を大幅に超えたのだ。活動そのものよりも、そこに携わる「人」の覚悟や背景が、支援者を動かした。
また、あるドキュメンタリー映画のクラウドファンディングを支援することになった鎌倉氏。その監督は友人も多いわけではなくPRが得意でもなかった。1000万円の調達は難しいと思われたが、監督自身の個性や「今証言を残す意味」を前面に出すことによって共感を広げ、最終的に1300万円超を集め、その後の助成金も含めて約2000万円を調達できたという。この事例は、テーマがマイナーであっても、強いストーリーと適切な発信があれば支援が集まることを示している。
(2)未来を描く。課題解決を示す
寄付は一時的な消費ではなく、未来や社会への投資という側面もある。支援者は「この寄付がどんな社会をつくるのか」を見極めているのだ。特に文化系(映画や文化財修繕など)には有効だという。
鎌倉氏は「寄付者は“このお金が未来につながるかどうか”を必ず考えます」と強調する。カンボジア病院建設のプロジェクトで1億2000万円を集めた際も、「この寄付で数千人の命が救われる」という未来像を提示し続けた。それが寄付者の納得を生み、大口支援を呼び込んだのだ。
(3)継続的に発信する
クラウドファンディングは公開後10日前後で支援が止まりやすい特徴があるという。多くのプロジェクトがこの“中だるみ”に苦しむのだ。
そこで鎌倉氏は「必ず1週間から10日に一度は新しい動きを発信する」と語る。現場の写真や動画、関係者の声、メディア掲載情報など、支援者がシェアしたくなる素材を途切れなく届けることが大事だという。
(4)オーシャンはどこかにある
手当たり次第に発信するのは、「無駄ではないものの時間的制限がある場合には効果的ではない」という。また、無理だと思われるプロジェクトにも、はたまたどんなニッチなプロジェクトであっても、鎌倉氏は「どこかにオーシャンがある」と語る。
鎌倉氏は、支援者層を漁場に例え、「あえて誰もいない漁場に網を投げる」ことも効果的だという。ある意味、ニッチな世界、オタクの世界の広がりは、実は深く早い。発信は、広く満遍なくではなく、どこに何を届けるかが大事なのだ。
(5)開始前から仕込みを行う
クラウドファンディングは、資金を集めたら基本的に1年以内にプロジェクトを遂行することが原理原則だという。したがって、プロジェクトを成功させるには、公開前からすでに支援の土台をつくることが必要だ。「ここで8割が決まります」と鎌倉氏が語るように、スタート前に友人や関係者、初期サポーターを確保し、公開直後に一定額が集まるように仕込みをしておくことが欠かせないのだ。
鎌倉氏が支援した複数のプロジェクトでは、この「5つの鉄則」が繰り返し成果を生んでいる。活動内容だけを淡々と説明し、支援者に未来像を見せられなかったプロジェクトは、支援が伸び悩んだ。成功と失敗を分けるのは、金額やリターンではなく、「人の物語」と「未来像」をどう描けるかに尽きるのだ。
鎌倉氏は、クラウドファンディングを「公園」に例える。
「誰もいない寂れた公園には人が集まりにくいですが、ある程度の活気やにぎわいがある公園には、人々が『ちょっと覗いてみようかな』と立ち寄りやすくなります」と鎌倉氏は語る。
有名人とのコラボ、たとえ有名人ではなくてもその分野やオタクの世界での有名人とのコラボなどさまざまな企画を試み、SNSで「ん!?」と思わせ、多くの人を巻き込む発信をして盛り上げる。そうすることでプロジェクトの成功へ近づきやすい。
つまり、クラウドファンディングを成功させるためには、そのプロジェクトに「にぎわい」や「熱気」、フェスのような盛り上がりを作り出すことが重要なのだ。これが、人々を惹きつける「祭り」を生み出すことになり、新たな支援者を呼び、支援額を増やしていくことになる。
近年、クラウドファンディングやファンドレイジングは、NPOだけでなく自治体や企業も活用し始めている。ふるさと納税や文化財保護の資金集めなど、用途は多岐にわたる。 「どんな分野でも、資金調達には原理原則があります。共感を生み、未来を提示できれば必ず支援は集まります」
これはビジネスの世界にも通じる。商品やサービスの機能説明だけでは足りない。なぜその企業がそれをやるのか、どんな未来を描いているのか――その「物語」を示すことで、顧客や投資家の支持を得ることができるはずだ。
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