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» 2020年09月18日 08時17分 公開

9月19日からイベント開催制限が緩和:興収2500億円超えの映画業界 カンヌに4本の作品を送り出した配給会社社長が語る「コロナ禍の生き残り方」 (1/4)

新型コロナウイルスの感染拡大は映画業界にも大きな影響を及ぼしている。配給会社ラビットハウスの増田英明社長は「日本では小さな配給会社でも生き残ることができる」と語る。日本の映画業界は毎年2000億円の興行収入を維持していて、小規模な配給会社がそのうちの10%のシェアを奪い合う一定のマーケットがあるからだ。中小の配給会社がコロナ禍をどのように生き抜くのか。増田社長に戦略を聞いた。

[田中圭太郎,ITmedia]

 新型コロナウイルスの感染拡大は映画業界にも大きな影響を及ぼしている。2019年の国内の興行収入は過去最高の2500億円を超えた一方、20年3月以降は多くの映画が公開延期を余儀なくされた。収容率が50%に制限されていた映画館は、9月19日から一定の感染対策をとれば満席が可能になるものの、観客がどれだけ戻るのかは不透明だ。20年の興行収入は激減が予想される。

 この厳しい状況の中で3月に立ち上がったのが、配給会社ラビットハウス(東京・中央)だ。同社社長の増田英明氏は15年から同じく配給会社のエレファントハウス(東京・港)の社長を務め、カンヌ国際映画祭で公式上映された『あん』『淵に立つ』『寝ても覚めても』(ビターズエンドと共同配給)などの作品を次々と世に出している。起業したラビットハウスでも、10月公開の『本気のしるし』がカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション作品に選ばれた。

 ただ、同社でも公開を予定していた映画が軒並み延期となった。それでも増田氏は「日本では小さな配給会社でも生き残ることができる」と語る。日本の映画業界は毎年2000億円の興行収入を維持していて、小規模な配給会社がそのうちの10%のシェアを奪い合う一定のマーケットがあるからだ。大手ではない中小の配給会社がコロナ禍をどのように生き抜くのか。増田氏に戦略を聞いた。

phot 増田英明(ますだ・ひであき)ラビットハウス社長。「20世紀FOX」「マイシアター」で配給製作を経験し、2015年「株式会社エレファントハウス」代表に就任。製作に参加した『あん』『淵に立つ』『寝ても覚めても』が「カンヌ映画祭」公式上映。『愛がなんだ』を配給後、20年に「株式会社ラビットハウス」を起業。『本気のしるし』が20年のカンヌ公式作品に選出

コロナで公開予定の4作品が全て延期に

 「3月に配給会社を起業して、5、6月に2本ずつの作品を公開する予定でした。それが新型コロナで全て公開延期です。その他の作品の公開予定もまだ立っていません。会社を立ち上げたのはよかったのですが、この状況でどうすればいいのか……。本当に戸惑いました」

 ラビットハウス社長の増田氏は会社を立ち上げてからの苦悩を語る。5月に公開を予定していたのは、アウトローの半生を描いた井筒和幸監督の『無頼』と松居大悟監督の『#ハンド全力』。6月には児山隆監督の長編映画デビュー作『猿楽町で会いましょう』と、深田晃司監督による3時間52分の異色作『本気のしるし』も予定していた。話題作ぞろいだったにもかかわらず、いずれも公開延期を余儀なくされたのだ。

 増田氏は会社員時代にギャガ、アスキー映画、20世紀FOX、マイシアターで映画配給と製作などを経験し、15年にエレファントハウス社長に就任した。今年3月に独立してラビットハウスを立ち上げることになる。

 「エレファントハウスでは『愛がなんだ』のヒットなどで業績が好調だったものの、雇われ社長だったので、もっといろいろなことがしたいと思い、オーナーと相談して緩やかに独立することになりました。19年10月に合同会社をまず立ち上げ、20年2月に公開した『37Seconds』をエレファントハウスと共同で配給し、3月に株式会社としてスタートしました」

 『37Seconds』は、米国で映画を学んだHIKARI監督の長編デビュー作だ。19年のベルリン国際映画祭パノラマ部門で、観客賞と国際アートシアター連盟賞の二冠を日本人で初めて受賞。NHKと共同で製作したテレビドラマが昨年12月にNHKのBSプレミアムで放送されるなど、公開直前まで話題になっていた。

 「『37Seconds』で収入的にもいい形で会社を始められると思っていました。それがコロナでもくろみが外れてしまったのです」

phot ベルリン国際映画祭パノラマ部門で、観客賞と国際アートシアター連盟賞の二冠を日本人で初めて受賞した『37Seconds』(©37Seconds filmpartners)

 だが、5月末に朗報が入る。6月下旬の公開を延期していた『本気のしるし』が、通常開催が見送られたカンヌ国際映画祭で、本来は上映する作品と位置付けられたオフィシャルセレクション作品に選ばれたのだ。『本気のしるし』は名古屋テレビ製作の連続ドラマとして、19年9月から12月にかけて東海地区で放送された。星里もちる氏原作のコミックを映像化。質の高さと登場人物の逸脱した異常ぶりがネットでも話題を呼んでいた。

 劇場版はドラマを再編集して、音を映画館の音響設備に合わせてグレードアップされた。深田晃司監督は16年の『淵に立つ』でカンヌ国際映画祭の準グランプリにあたる審査員賞を受賞した実績があり、『本気のしるし』で再びその実力が海外で認められた。

 「悩んでいた時期に連絡をもらったので、『本気のしるし』がカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションに選ばれたときは本当に救われた気がしました」

 『本気のしるし』は10月9日からの公開が決まった。ラビットハウスも再始動に向けて動き始めている。

phot 10月9日からの公開される「本気のしるし《劇場版》」©星里もちる・小学館/メ〜テレ

15年以降4本のカンヌ公式作品に製作参加

 新会社の船出に苦労している増田氏だが、面白い映画を嗅ぎ分ける能力は業界でも知られている。それはエレファントハウス時代から、製作に参加した作品がカンヌで次々と評価されているからだ。

 深田晃司監督『淵に立つ』に加え、15年の河瀬直美監督『あん』はカンヌ国際映画祭のある視点部門のオープニングを飾った。18年の濱口竜介監督『寝ても覚めても』はコンペティション部門に選出された。今回の『本気のしるし』によって、15年以降4本の作品がカンヌに選ばれたことになる。

 「4作品がカンヌで評価されたのは、もちろん監督の才能です。河瀬監督は実績がありましたし、深田監督や濱口監督は自主映画作品の頃から海外の映画祭で評価されていましたから、そんな作家と出会えた自分はラッキーでした」

 増田氏はラッキーだと謙遜するものの、映画プロデューサーとして独自の視点を持っている。それは、脚本アナリストの資格を持っていることだ。20世紀FOXに在籍していた10年に、経団連や映像業界、関係各省によって設立された「映画産業振興機構」の講座を受けて資格を取得した。脚本アナリストは日本では珍しい一方、米ハリウッドの映画ビジネスでは確立された存在だという。

 「ハリウッドの映画は脚本重視です。脚本が登録されて、気に入ったプロデューサーがその権利を買い、監督や役者を決めていくのがハリウッドでよくある作り方です。脚本アナリストは、脚本を読んで優れた企画を探すほかに、銀行が作品の製作に融資する際、銀行側に立って脚本を評価する役目も担っています。

 一方で日本の映画製作では、役者のスケジュール重視で進められることも、ままあります。人気俳優を押さえることができた場合、その役者に合わせてスケジュールが組まれていく。これは日本の観客が俳優を重視して作品を選ぶ傾向が強いので、ビジネスとしては当然ではあります。それが多くの出資社で構成されている日本の『製作委員会方式』では、意見を調整する必要性があるため仕方ないのだと思います。

 私は脚本アナリストの資格を持っていることもあり、『淵に立つ』と『寝ても覚めても』は脚本を読んでいいなと思い、コミットしました。エレファントハウス時代に出資したのは『あん』を含め、この3作品だけです」

 増田氏は、これまで出資した3作品を除けば、どちらかといえば配給側としてプロデュースしてきた。しかし、今後は脚本アナリストの資格を生かして、映画の企画開発にも力を入れていく考えだ。

phot 故・樹木希林氏の最後の主演作となった『あん』(©2015映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE)
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