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興収2500億円超えの映画業界 カンヌに4本の作品を送り出した配給会社社長が語る「コロナ禍の生き残り方」9月19日からイベント開催制限が緩和(2/4 ページ)

» 2020年09月18日 08時17分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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日本の興行収入は2000億円前後で推移

 現在、国内にはラビットハウスのような小規模な映画配給会社が乱立している。その数は正確に把握できないものの、1990年代以降に増えてきたという。では、なぜ配給会社は増えているのか。

 理由の1つが、この20年間、国内のマーケットがやや拡大傾向にあることだ。国内の興行収入の統計があるのは2000年以降。だいたい2000億円前後で推移し、14年以降は毎年2000億円を超え、19年は過去最高の2500億円超えとなった。

phot (図)2000年以降の興行収入などの市況(出典:日本映画製作者連盟発表データを元にラビットハウス作成)

 この過程で、洋画と邦画のシェアが変化した。2000年代前半のシェアは「洋画7:邦画3」くらいで「洋画>邦画」だった。だが06年に邦画が逆転すると、シェアが6割を超える年も出てきた。これは民放キー局による作品や、アニメ作品の大ヒットが要因となっている。

phot (図)邦画と洋画の興行収入のシェアなど(出典:日本映画製作者連盟発表データを元にラビットハウス作成)

 配給会社別のシェアを見ると、国内で常にトップに立つのは東宝。昨年には30%(『天気の子』『名探偵コナン 紺青の拳』『キングダム』『ドラえもん のび太の月面探査記』)を占め、他社から抜きん出ている。それ以外の配給会社は、ヒット作があるかどうかで順位が変わる。

 2位にディズニー(『アナと雪の女王2』『アラジン』『トイストーリー4』『ライオンキング』)、3位にワーナー(『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』)、4位に松竹(『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEキングダム』『ファブル』)、5位に東映(『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』)と続く。

phot (図)配給会社別のシェア(出典:文化通信社からの資料を元にラビットハウス作成)

 19年では、上位12社だけで全体の85%程度のシェアを占めていて、90%を占める年もある。簡単に言えば、10〜15%のシェアを数多くの中小配給会社が奪い合っているのだ。しかし、増田氏は「それでも十分勝負ができる」と話す。

 「例えばですが、2000億円の10%は200億円です。これだけの市場があれば、私たちのような小さな配給会社でも、月々のランニングコストを抑えていけば勝負ができます。以前は小さな配給会社のマーケットは全体の5%くらいでした。チャンスは広がっています」

 配給会社が増えたもう1つの大きな理由は、映画の製作や上映がデジタル化したことにある。以前は作品をフィルムに焼き付けるのに1本20万円ほどの費用がかかり、上映中はその映画館にフィルムを置いておかなければならず、上映する映画館の数だけフィルムを作る必要があった。それが10年頃までに映画館がデジタル化されると、映画館のサーバにデータを入れれば済むようになり、大幅な省コスト化が実現したのだ。

 同時に、宣伝方法も変わった。大手の配給会社は、多くの映画館を押さえ多額の費用を払ってテレビCMを放送する。話題のコミックが原作の映画であれば、15秒のCMでも多くの人に届くため、多額の費用を払ってもビジネスは成り立つ。だから映画は原作重視で作られることが多い。

 小規模な配給会社はCMを放送する予算がなかった一方、SNSの普及によって、予算を使わずに映画の宣伝や評判を拡散できるようになった。映画の感想がTwitterなどで話題になると、口コミで広がる。東海地方のローカルドラマだった『本気のしるし』もネット上で話題になったことも幸いして映画化までこぎつけた。SNSの宣伝効果は十分にあるのだ。

 デジタル化やSNSによる省コスト化が実現したことで、小さな配給会社でも積極的に作品を製作してヒットを狙えるようになった。低予算の映画ながら興行収入が30億円を超えた17年の『カメラを止めるな!』のように、映画は一発当たれば大きなビジネスになる。

 「映画がビジネスとして面白いのは、製作費が高くても安くても、映画館の入場料は一律である点ではないでしょうか。自動車やPCなどの製品はスペックによって値段も違いますね。一方の映画は、低予算で作った作品であっても、100億円掛かったハリウッドの作品と同じ土俵にあげられる。この点は私たちのような小さな会社にとって魅力なのです」

phot 「映画がビジネスとして面白いのは、製作費が高くても安くても、映画館の入場料は一律である点」だと語る増田社長

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