この記事は『AI時代の組織の未来を創るスキル改革リスキリング 【人材戦略編】』(著・後藤宗明/日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
海外で技術的失業を防ぎ、成長分野への労働移動を実現する解決策として注目されてきたリスキリングですが、AIやロボットなどの自動化テクノロジーの日進月歩の進化が続く中、人間の仕事は何が残るのか? という議論がついに日本でも活発になってきました。僕自身は、AI時代における、「人間の労働」に対して、新たな価値の再定義を行う必要性があること、また新たなスキルの創造が必要な時代が訪れていると考えています。
やはり生成AIの登場により、より学際的スキルを身につけることの重要性がより高まってきています。例えば、象徴的なブランドとしてChatGPTは認知されていますが、実は海外では、業界や職に特化した生成AIサービスがすごい勢いで誕生しています。これは英語でVertical AI(垂直型AI)と呼ばれ、2019年頃から業界や職種に特化した米国のスタートアップが次々と生まれていった流れをくんでいます。
こうした業界や職種に特化した生成AIが皆さんの働いている組織で導入され、そしてサービスのレベルがどんどん進化していくと、どういう事態が起きるでしょうか? 特に事務作業的なタスクが自動化され、従来の業務を遂行するスタッフの数が少なくて済むようになります。外資系企業などではまずヘッドカウント(従業員数)を減らしていきます。
つまり、リスキリングをせずに従来型の仕事をそのまま継続していると、この業界・職種特化型の生成AIの影響をもろに受けることが予想されます。AIが特定のタスクを上手にこなしてくれ、事務作業は効率化されるため、放っておくと少ない人数で現在の仕事ができるようになります。そのため生産性の向上を実現し極限まで株価向上を目指す企業では、すでに人員削減が始まっています。
そのため、正解を出すこと、タスク実行はAIロボットに任せ、人間はその手前の段階の課題を設定すること、が重要な業務になっていくのです。現在人間にしかできない課題を創出し、業務を組み替えていくこと、そしてリスキリングを通じて、新たに必要とされるスキルを身につけ、複数分野の知識、経験、スキルを投入して仕事を進める「学際的スキル」を構築していくことが急務なのです。
現在私たちが抱える社会的課題、例えば技術的失業、気候変動、地政学的課題、少子高齢化、格差の拡大などを解決していくためには、既存のアプローチでは対処しきれない側面があります。そこで、例えば最新のテクノロジーを活用し、社会学、心理学、経済学などの複数の観点から課題解決を行う必要があるのです。すなわち、そういったアプローチが可能な人材を育成していくことによって、社会課題や顧客が抱える課題を先取りして解決していくことができるのです。
また、複雑多様化する課題に対応するためには多角的視点が不可欠です。AIやロボット技術の進展により、社会や組織が直面する課題は単純な専門領域の問題ではなく、技術・人間・経済・倫理など多方面にまたがる複雑な問題へと変化しています。
例えば、AIを導入する際には、技術的な実装だけでなく、業務プロセスや人材配置、法規制、社会的影響といった多角的な視点からの検討が必要です。単一分野の専門家では見落としがちな要素を学際的スキルを持つ人材は俯瞰的に捉え、総合的な解決策を構築できます。つまり、学際的な知見、スキルが前述の課題を発見する鍵を握るのです。
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