リスキリングの現場で活動してはや7年、気づいたことがあります。それはちゃんとスキルの可視化を行っていないにもかかわらず、思い込みで中高年のスキルについて決めてかかってしまっている現状です。経営者や人事部の方とお話ししていると、個人個人を指すのではなく「うちの50代社員は」「ミドル・シニア層のスキルが陳腐化している」「うちの従業員は低スキル」などと一般論として決めてかかってしまっているのです。実際におうかがいしてみると、その論拠はほぼ思い込みに等しく、丁寧に従業員のスキルの可視化を行っていないのです。
一方で、従業員の方々も、「いやー私にスキルなんてないです」と言う方がいかに多いことか。謙虚なだけなら心配ないのですが、本当にそう思い込んでいるケースが多いのです。また組織における昇級昇格レースの結果から、組織の評価をそのまま受け入れて、自分を卑下する視点からしか自分を見られなくなってしまっていることもあるのではないかと思います。
従業員の方々には必ずスキルがあり、それは組織の資産です。その資産をどう生かすのか? を真剣に模索し、リスキリングを通じて新たなスキルと掛け合わせて、新たな価値を生み出すのは、組織、企業の責任です。このプロセスを真剣に行わずして、人的資本投資などという号令は絵空事になってしまいます。
ここでお伝えしたいことは、企業側の偏見や思い込みと、個人の自己評価の低さが運悪く嚙み合っており、悪循環が起きているという点です。特に、「中高年にリスキリングなんてやっても無駄」という意見です。実際に、中高年の方々に真剣にリスキリングの機会を提供し、それでもダメだった、というケースは私は今まで一度も聞いたことがありません。ほぼ、未実施の状態での仮説、思い込みの域を脱していません。
そこで重要になるのが、現在従業員の方が持っているスキルに対して、どのような新しいスキルを掛け合わせると、新しい価値を創出できるかという考え方で推し進める「学際的スキル」という考え方なのです。
働く経験を持った方であれば、必ず複数のスキルを持ち合わせています。現在の従業員の方々が持つスキルに対して、リスキリングを通じて新しいスキルの習得により、新たな価値を創出し、人材の価値を最大化するのが、経営者、リーダーの役割ではないでしょうか。部下の無能さについて愚痴を言っている人は、自分がリーダーとして人材育成を行うスキルを持っていないことを証明しているようなもの、という表現があります。実はスキルに対しても同じことがいえるのではないかと思います。
自社の将来の事業戦略が明確に定まれば、どんな新しいスキルが自社で必要になるかが決まります。その上で、新しいスキルの習得機会を用意し、既存スキルと掛け合わせて、どんな新しいスキルが生まれるか、新たなスキルセットの組み合わせができるか、ぜひリーダーの方々に組織として取り組んでいただきたいです。
もちろん、働く個人の方々も、自分自身の将来のキャリアを見据えて、自分の現状のスキルにどんなスキルを掛け合わせたら新たな価値を発揮できるか、を自分ごととして積極的に模索する必要があることは言うまでもありません。
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