先ほども申し上げたように、2024年の国内てん茶生産量は約5300トンだが、日本国内で「抹茶」として流通している商品はそれよりもかなり多く、推計で約1万トンとされる。なぜこのようなギャップが生じるのかというと、われわれが日常的に口にする抹茶製品は、厳密にいえば「抹茶」ではないからだ。
日本茶業中央会の定義では「抹茶」というのは「碾茶(覆下栽培した茶葉を碾茶炉等でもまずに乾燥したもの)を茶臼等で微粉末状に製造したもの」とある。
覆下栽培(おおいしたさいばい)とは、新芽が出たら黒いネットやよしずで覆って、太陽光を遮って育てる栽培方法。その芽を摘んでもまずに乾燥させたものを、石臼や茶臼でひくことによって、抹茶の風味や色合いが生まれるという。つまり、かなり手間暇がかかったものだ。実際、京都・宇治の老舗「辻利」の辻俊宏社長もメディアの取材にこう答えている。
伝統的な石臼ひきによる抹茶づくりは1時間にわずか40gしか生産できないほど繊細で手間のかかる工程。価格相場の高騰や原料供給の課題もあるが、抹茶の価値を守りながら持続可能な体制づくりに取り組んでいく(食品新聞 2025年11月2日)
そんな繊細で手間のかかる工程を必要とする抹茶が、世界中のカフェの抹茶ラテやコンビニ菓子、スイーツに投入することなどできるわけがない。このカラクリについて、静岡県立大学茶学総合研究センター長で「茶の品種博士」と呼ばれる中村順行特任教授はこう述べている。
「私たちが日常的に目にする、商品名に『抹茶』とつくスイーツやドリンクの多くは、日本の伝統文化として認識されている茶道用の抹茶とは異なり、“秋碾茶(あきてんちゃ)”や“モガ茶”等から作られた安価な食品加工用原料が使用されることが多くみられます」(FRIDAYデジタル 2025年10月31日)
これは日本茶業中央会の定義では「粉末茶」というものだ。しかし、「粉末茶ラテ」とか「粉末茶アイス」をうたっても、消費者にはササらない。そこでマーケティング的に「抹茶」をうたっているのだ。
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