新人の「考える力」をAIに奪われないために これからの人材育成で実行すべき3ステップ【プロンプト例あり】(2/4 ページ)

» 2025年11月26日 10時00分 公開
[村上悠太ITmedia]

AIとツッコミを入れあう関係性になる

STEP2:広げて、疑う(スループット)

 3ステップの中で、最もAIが威力を発揮するのがSTEP2だ。

 まず「広げる」ことについて。本来、ある問題への解決策の選択肢は複数存在するはずだ。できるだけ多くの選択肢を挙げてから、その後、批判的思考で一つに絞り込んでいくことが理想の思考プロセスだといえよう。

 だが、スキルや経験の浅い新人であればあるほど、一つの解決策を検討するだけでも難易度は高く、他のオプションを検討することは更に難しい。このギャップを解消し、新人の思考力を拡張してくれるのがAIだ。AIは思考のタネさえあれば、それを広げて、アイデアの数を爆発的に増やすことに長けている。

 次に、広げたアイデアに対して「疑う」プロセスを入れることが重要だ。この点も新人であればあるほど抜け落ちやすい。実際に、プロフェッショナル・ファームの英EYが2024年12月に発表した「Global Gen Z AI Literacy Report」によると、世界16カ国の18〜26歳5000人超のうち、61%が生成AIを日常的に活用している一方で、「AIの出力を批判的に評価できる力」を持っているのは44%にとどまった。

 アイデアに対して、広い視点から”ツッコミ”を入れる側になることもAIの得意領域だ。AIの出力に対して人間が正しくツッコミを入れることは言うまでもなく大事だが、逆に、自分の出力に対してAIにツッコミを入れてもらうことも重要。AIとツッコミを入れあう関係性になることが理想だ。

<STEP2でのAI活用具体例>

(1)AIに幅広くアイデアや情報を出させる

(2)良さそうなアイデアについて、AI自身に不足事項を列挙させて改善アイデアを出力する

(3)改善したアイデアについて、認知バイアス・前提条件を洗い出し、更に改善する

<プロンプト例>

【広げる】

 あなたはブレインストーミングの専門家です。[テーマ]について、できるだけ多くのアイデアを提案してください。各アイデアは簡潔に1行で書いてください。最低でも[10個]以上出してください。

【疑う1(改善列挙)】※

 この出力を60点と仮定してください。100点にするには何が不足していますか? 不足項目を列挙し、その上で100点の出力を提示してください。

※こちらは深津貴之氏が考案したプロンプトで、Score Anchoringというテクニックの例である。(出典:『ChatGPTを使い尽くす! 深津式プロンプト読本』、深津貴之・岩元直久著、日経BP)

【疑う2(認知バイアス)】

 この提案を立てた人が陥っている可能性のある認知バイアスを3つ挙げ、それぞれ説明してください。また私とのこれまでの会話の中から、私の思考の癖を踏まえて特に陥りやすいバイアスを教えてください。

 例えば「疑う2(認知バイアス)」のプロンプトを入力すると、以下のバイアスを生成AIが挙げてくれる。

<回答例>

  • 確証バイアス(Confirmation Bias):自分の信じている仮説や前提に合致する情報ばかりを集め、反証する情報を無意識に無視してしまう。
  • 権威バイアス(Authority Bias):著名人・専門家・有名機関の発言を、内容の妥当性を吟味せずに「正しい」と受け入れてしまう。
  • 利用可能性ヒューリスティック(Availability Heuristic):直近の経験や印象に残る事例をもとに判断し、統計的に稀なケースを過大評価してしまう。
  • アナロジーバイアス(Analogy Bias):理解しやすい比喩や類似例に頼りすぎ、現実の複雑性や文脈の違いを見落としてしまう。
  • 現状維持バイアス(Status Quo Bias):変化に伴う不確実性を避け、現行のやり方や構造を過大評価して維持しようとする。

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