サイバーエージェントは、2025年12月12日付で藤田晋社長が退任し、会長に就任する人事を発表した。もともと2022年に社内で社長交代を宣言。16人の後継者候補を選抜し、研修を重ねてきた。今後の展開が注目されている。
急成長企業が経営トップを代える局面では、“組織の土台”があらためて試される。同社が創業20人から8000人規模へと成長する過程で、人事制度の設計を担ってきたのが、常務執行役員CHOの曽山哲人氏だ。20年にわたり人事責任者として現場と経営をつなぎ、次世代リーダーの育成や「失敗を許容する文化」の定着を推進してきた。
曽山氏の経験から導かれた組織マネジメントの要諦とは。日本企業が直面するリーダーシップの課題を浮き彫りにし、その解決策に前後編で迫る。
曽山哲人(そやま・てつひと) サイバーエージェント常務執行役員CHO。上智大学文学部英文学科卒。1999年サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。採用・育成・活性化・適材適所・企業文化など人事全般を統括。また、サイバーエージェントが設立したプロダンスチーム「CyberAgent Legit」のオーナー。同チームはプロダンスリーグ「D.LEAGUE」で活躍し、2022〜2023シーズン以降のシーズン3連覇の実績も持つ。12月8日に開催する次世代のロールモデルとなるCxOを選出する「Japan CxO Award」の審査員を務める「経営者にとっての一番の課題は、次の幹部が育っていないことです」――曽山氏は、上場企業の人事責任者らと情報交換する中で共通して語られる悩みをこう断言する。
創業者や第一世代の経営陣が急速に成長する一方で、その背中を追うはずの部長・役員クラスとの間に大きなギャップが生まれてしまう。加えて、その下のマネジャークラスが育っていないことが問題なのだ。曽山氏自身、スポンサー企業向けに幹部育成プログラムを提供しており、複数社から幹部候補を集めてワークショップを開いている。そこで浮かび上がるのは「決断経験の不足」や「経営視座の低さ」といった共通課題だ。
日本企業における次世代リーダー不足は、単なる後継者探しの問題ではなく、組織の持続的成長を左右する根本課題と言える。
経営の課題は人材育成だけではない。組織作りにおいても多くの課題を残している。サイバーエージェントが急成長の中でも文化を維持できた理由として、曽山氏は「経営の言行一致」を挙げる。
「経営陣が言うこととやることを一致させなければ、どんな立派なビジョンも浸透しません」と語る曽山氏。
例えばバリューを掲げるなら、役員会や合宿でその実践状況を議論し、部長・課長へと日常会話の中で落とし込んでいく。役員が語らなければ部長はその部下には語らない。つまり部長が語らなければ社員には浸透しないのだ。バリュー研修や施策だけでは不十分であり、経営陣自らが繰り返し話題にし、実践して見せることが欠かせない。
この言行一致の姿勢は、新規事業開発にも表れている。サイバーエージェントは創業初期、多くの新規事業が失敗し撤退を余儀なくされた。しかし藤田社長自らが「アメーバブログ」や「AbemaTV」(現ABEMA)といった大規模プロジェクトを立ち上げ、赤字覚悟で推進したのだ。
「役員がやっていないのに、現場に『新規事業をやれ』と言っても説得力はありません。経営陣が本気で取り組み、成功事例を示すことで初めて、組織全体に波及するのです」
ABEMAは開局10年を目前に、メディア・IP事業の黒字化を実現した。トップが身をもって挑戦する姿勢が、全社に挑戦文化を根付かせたのだ。
曽山氏が繰り返し強調するのは、組織における「上からの連鎖」である。
「社員にとって至極当然なのは、『言っていることを上がやっているか』です。役員がやれば部長がやる。部長がやれば社員もやる。ここが崩れた瞬間に文化は形骸化します」
組織文化は理念やスローガンではなく、日々の行動連鎖で形作られる。曽山氏の言葉は、あらゆる企業に通じる本質を突いている。
曽山氏が組織づくりの制度設計で重視したキーワード。それが「損得エモーション」だ。人間は損失回避のインセンティブによって動く存在であり、単に合理的な損得勘定ではなく「感情的に得だと思えるかどうか」が制度浸透のカギを握ると語る。
例えば新規事業プランコンテストを開く際、応募フォーマットが複雑で賞金も少なければ社員は動かない。逆に「参加しなければ損」と思える仕組みにすることによって、初めて挑戦が広がる。
「どんな人事制度も、社員が『得だ』と思えなければ機能しません。感情に寄り添った設計が必要です」
組織の制度についてこのように話す曽山氏。氏自身は、どのようにして、現在のキャリアを切り拓いてきたのだろうか。
2003年、役員合宿で「人事を強化する」という方針が決定され、人事本部が新設されることになった。そこでもともと営業のトップだった曽山氏は、藤田晋社長からの指名を受け、即答で人事本部長就任を引き受ける。
背景には「営業には優秀な人材が多く競争が激しい一方で、人事は誰も成功していない空きポジションだった」という戦略的な判断もあった。
「空いているポジションを探すのは、キャリア戦略として重要です。人事なら自分の力で変えられると思いました」
こうして曽山氏は、営業トップから一転、人事責任者としてのキャリアを歩むことになった。
曽山氏が入社した当時のサイバーエージェントは退職率20%超という高離職の状況にあり、中途幹部が成果を出せず現場が混乱していた。曽山氏はその状況を「カオスだが、悪くなることはない。頑張れば上げられる」と捉えた。
「売り上げがゼロなら、1円でも増えればプラスになる。カオスこそチャンスだと思いました」
組織が混乱する中でも、前向きに挑戦を仕掛ける姿勢。これが、曽山氏のキャリアを切り拓いていった。
次世代リーダーの不足、失敗を許容する文化の欠如、制度が形骸化する危険性。これらは失われた30年を経た日本企業に共通する課題だ。曽山氏が説く「成果と失敗」「損得エモーション」の視点は、組織を変革するための実践知として示唆に富んでいる。
後編では、サイバーエージェントが社員8000人規模でも一貫した文化を維持できる理由である「小集団経営」「抜擢文化」「敗者復活」の仕組みを深掘りしていく。
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