自治体DX最前線

「自治体システム標準化」は、なぜここまで迷走するのか? 現場で見えた2つの“ボタンの掛け違い”(4/4 ページ)

» 2025年12月10日 07時00分 公開
[川口弘行ITmedia]
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先行事業の“警告”を直視しなかった政府の責任

 そもそも基本方針が定まらないまま、標準化への取り組みだけが進んだところに最初のボタンの掛け違いがあるのですが、同じ時期に行われた「ガバメントクラウド先行事業」の結果を政府が直視しなかったことが、次なるボタンの掛け違いでした。

 この先行事業では全国から選ばれた8つのグループがガバメントクラウドに現行システムを移行し、移行前後のコストの比較を行うというものですが、総コストが低下したのは1グループのみでした。

 翌年度以降のコストが減少したグループもありましたが、移行のための初期投資を回収するには相当の年数がかかるため、全体の結果としては「ガバメントクラウドへの移行はただちにコスト低下に寄与しない」と筆者は判断した記憶があります。

現行と比較したときのイニシャル・ランニング・トータルのコスト(政府資料)

 そもそもコスト削減を願っていたのは、他でもない全国の自治体自身です。

 これまでも複数自治体によるシステムの共同運営など、さまざまな工夫を積み重ねてコスト削減を実現してきたにもかかわらず、ガバメントクラウドへの移行でこれまでの共同運営の仕組みが崩壊したこともあり、相対的にコスト増の結果になったという側面もあります。

 しかし、この結果に対し「標準化対象システムをガバメントクラウドと親和性の高い技術(いわゆる『モダン化』)で再開発すれば問題は解消される」といった複数の仮定を持ち出し、あたかもガバメントクラウドへの移行こそが標準化の意義を体現するものであるかのように施策を強引に推し進めた点が、現在の混乱へとつながっていると筆者は考えます。

 本来であればここで施策の再検討や立ち止まりが必要でしたが、政府が自らの誤りを認めて是正することができなかった点に、組織としての未熟さを感じざるを得ません。

 筆者はある自治体の標準化対応の支援業務を引き受けており、令和3(2021)年8月の時点でこの事業の失敗の可能性が非常に高いことを見抜いていました。すぐに市長に説明を行い、上述した、Q、C、Dの見通しが暗いので、少なくともこれらのどれを優先するべきかを決定していただければ、リスク回避の取り組みを進めることができます、という趣旨の発言をした記憶があります。

筆者が市長に向けて説明した標準化対応説明資料(抜粋)

 では、この自治体が無事に標準システムへの移行を完了できたのかというと、残念ながら道半ばの状態です。ただ、他の自治体に比べて幾分かダメージは小さく済んでいるのではないかと感じています。

 誤解されないよう付記しておきますが、筆者は自治体システム標準化の考え自体は否定していません。法制化されていますし、そもそも基本方針に掲げられた「意義」は(政府が本気で掲げたのかはともかく)賛同できます。ただ、筆者が目指していたのは、

  • 地方公共団体が情報システムを個別に開発することによる人的・財政的負担を軽減し、
  • 地域の実情に即した住民サービスの向上に注力できるようにするとともに、
  • 新たなサービスの迅速な展開を可能とすること

――であり、標準システムへの切り替えとガバメントクラウド移行という「作業」ではなかったことはきちんと申し上げておきます。

 今回は前半部分の「WHYとWHATの関連が軽視された」ところを中心に筆者の考えを記しておきました。次回は「WHATの肥大化」と「HOWの選択肢が潰れた」ところについて考えていきましょう。

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