本コラムでも繰り返し書いているとおり、「仕事」「家庭」「健康」の3つの幸せのボールを、ジャグリングのように回し続ける「働き方・働かせ方」が、人生を豊かにします。
ワークライフバランスという言葉は、本来「仕事と生活の調和」を意味します。ワークライフバランスの施策として、残業を減らし、家庭生活の時間を増やして、24時間を仕事と生活が半々のバランスの取れたものにしようと取り組むことは、本当の意味でのワークライフバランスにはなり得なません。
ワークライフバランス施策が広まるきっかけとなった1993年の米フォード財団の研究では、「仕事の再設計」をすれば、会社が掲げる業務目標を達成しながら、従業員にも私生活を充実させるだけの時間の余裕をもたらすことができるとしました。
つまり、「働いて働いて働いて」=成果を出すことではない。「どのような仕事のやり方をすれば、期待する成果が出て、同時に私生活を充実させることができるか」という問いから出発し、次の3つのステップを進めます。
(1)仕事と理想的な従業員像についての既存の価値観・規範を見直す
(2)習慣的な仕事のやり方を見直す
(3)仕事の効率と効果を向上させ、同時に仕事と私生活の共存をサポートするための変革を行う
こうして完成したプログラムを、チーム、個人、管理職、経営トップが一丸となって実行することで、働く人も組織も幸せになれるとしたのです。
このプログラムの中核にあるのが「ワーク・ファミリー・エンリッチメント」の概念です。これは「一つの役割における経験が、別の役割における経験の質を高めること」を意味します。
具体的には、「子育てをすることで、部下に寛容になれるなど人間関係が円滑になった」「仕事で身に付いた問題解決能力が子育てにも役立った」といった経験で、前者は「ライフ→ワーク」、後者は「ワーク→ライフ」へのエンリッチメントです。エンリッチメント理論では、仕事と家庭生活が互いに質を高め合う関係にあると考え、ポジティブな関係性に着目します。
また、仕事と家庭で求められる役割の両立が難しい状態から生じるストレスは「ワーク・ファミリー・コンフリクト」(WFC)と呼ばれています。「本当は家庭生活に充てたい時間なのに、仕事のために充てることができない」「仕事で疲れきってしまい、家事をするのが面倒になる」「仕事のことが頭から離れず、家事にうまく関われない」といった心理状況(WFC)に陥ると、職務満足度が低下し、離職意図が高まり、うつ症状や疲労などが強まってしまうのです。
私が関わったWFCに関する実証研究では、WFCが高まると職務満足感が低下するだけでなく、仕事の効率が落ち、家庭不和を招くことも示唆されました。
また、「ライフ」には自己啓発なども含まれるので、「長期休暇をとって、海外の会社を見てこよう」「有給を使って、ショートステイして英語力を磨いてみよう」と思う社員が、周りの空気で有給を取得できなかったりすると、それもコンフリクトとなります。
一方で、WFCのない、仕事も家庭も自分が満足できている状態になると、人生の満足感が高まり、個人の生産性が向上し、企業にも還元されます。実際、生産性の高い会社の社員たちにはコンフリクトが少ないことが分かっているのです。
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