攻める総務

社会保険、育介法、労基法改正……2026年を“大混乱”の1年にしないために、総務がすべき事前準備「総務」から会社を変える(3/3 ページ)

» 2025年12月18日 08時00分 公開
[豊田健一ITmedia]
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総務の本番は、就業規則を「変えた後」

 法改正対応と聞くと「就業規則の変更届けを労基署に出して完了」と思われがちだが、総務にとっての本番は、その後である。

 法律が変われば、割増賃金の計算式や、休暇の付与ロジックが変わる。ベンダーへの問い合わせ、システム改修の予算確保、そしてテスト運用。これらを施行日の数カ月前から完了させておく必要がある。「施行日にシステムが対応していませんでした」となっては、給与未払いに直結する致命的なミスとなる。

 また、忘れがちなのが新規入社者向けの書類更新だ。法改正後に古い書式で契約を結んでしまうと、法的不備のある契約となりかねない。入社手続きセットの棚卸しは必須だろう。

 基本的に、従業員は就業規則を読まない。彼らが見るのは社内ポータルのFAQである。「介護休暇は何日まで取れますか?」というQ&Aが古いまま放置されていないかなど、総点検をしていこう。

出所:ゲッティイメージズ

法改正は、社内を一気に変えるチャンス

 ここまで触れたように、2026年に向けて押し寄せる業務量は膨大だ。ある総務担当者からは「まだ2026年を迎えていないのに、気持ちはすっかり年越ししてしまった」といった言葉が聞かれた。決して気のせいではなく、バックオフィスの最前線にいるとして、極めて正常で鋭敏な感覚の現れだ。

 法改正への対応を単に「国が決めた面倒な仕事」と捉えると、総務部門は疲弊するばかり。しかし、視点を変えれば、これは会社をより良く変えるための「最強の武器」となる。

 普段、経営陣に対して「従業員の休息が必要です」「システム投資が必要です」と提案しても、コストを理由に却下されることが多いはずだ。しかし、法改正時は違う。

 「法律で義務化されます。対応しないとコンプライアンスリスクがあります」という言葉は、経営陣を動かすための強力なカードになる。この機会を利用して、長年の課題だった旧態依然とした勤怠管理や、属人的な業務フローを一気に刷新してしまうとよい。

 また、法改正の周知文を「法改正により〇〇が変わります」という事務的な通知で終わらせてはいけない。「当社は、皆さんがより長く、健康に働ける環境を作るために、この法改正を機にこう変わります」といったように、会社からのメッセージに変換して伝えること。これができるのは、経営と現場をつなぐ総務だけだ。

 最後に、法改正の細部は施行直前まで通達が出ないことも多々ある。そのため、全てを完璧に決めてから動こうとすると手遅れになる。「まずはこの方向で進め、詳細が判明次第アジャストする」というアジャイルな姿勢を持つことが、精神的な余裕にもつながる。

 2026年は間違いなく大変革の年となり、「総務の価値」がかつてないほど高まる年にもなるだろう。複雑化する労働法制を読み解き、システムに落とし込み、従業員に安心を与える。この高度なプロジェクトマネジメントを完遂できたとき、あなたの総務としてのキャリアとスキルは、一段高いステージへと引き上げられているはずだ。

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

toyoda

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/(一社)日本オムニチャネル協会 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会専務理事、(一社)日本オムニチャネル協会フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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