これまでのAI活用は「40点」──三井住友フィナンシャルグループ(以下:SMBCグループ)執行役専務 CDIOの磯和啓雄氏はこのように語る。
AX(AIトランスフォーメーション)に本気で取り組む同社は、日本で戦略を描き、海外拠点を実験場として高速実装するモデルを打ち出した。
前編:「脱・PoC止まり」 SMBCグループが示す「日本で考え、海外で実装する」AI戦略の勝算
現在、同社が抱える300万社の顧客のうち、デジタルで接点を持てているのは、たったの5万社にとどまる。AI活用の真価は、残された295万社をいかに支援できるかにかかっているといえそうだ。
後編では、同社がAI推進を「40点」と評価する真意や、営業分野でのAI活用の可能性について磯和氏に聞いた。聞き手は、テックタッチ取締役 CPO/CFOの中出昌哉。
中出: これまでのAI活用に点数をつけるなら、何点くらいでしょうか。
磯和: 40点ですかね。技術的には一定の成果が出ていますが、AIを“使いこなす”という意味では、まだ道半ばです。
実際、社内でも部署ごとに成熟度の“ばらつき”があります。例えば、個人向けの金融アプリ「Olive」(オリーブ)などは表面的にはデータがきれいに取れていますが、全社的なデータレイクや共通基盤の整備はこれから。いわば“光と影が同居する段階”なんです。
中出: 共通基盤化したうえで全社規模で展開できるようになると、初めて“DXとAIがつながる”フェーズに入る。まさにその移行期ということですね。
磯和: 一方で、組織全体のトランザクション(取引)をどう再設計するかという課題もあります。法人ビジネスは約300万社。そのうち当社がデジタルで接点を持てているのは、大手5万社ほどです。デジタルでの取引を拡大し、残る295万社をどう支援していくか。また、法人と個人を分けずに捉えることが重要だと考えています。
法人の社長に法人口座を提案しているときに、その方のご家族――例えば、娘さんの結婚などの情報をAIが把握できれば、資産運用や個人口座など、ライフイベントを軸にした横断的な提案が可能になる。こうした発想は、単なる営業効率化ではなく、顧客を“人”として理解し続ける関係の再構築なんです。
中出: それはまさに「営業の本質」ですね。AIによって“効率化”ではなく、“人をより深く理解する営業”に進化していく。
磯和: こうして法人と個人を分けずにトランザクションを捉えることで、AIが顧客との接点をより深く、より人間的に広げていける。最終的には、どれだけAIを活用しても最後に判断するのは人間。AIを使うことで、むしろ“人にしかできない営業”がより鮮明になってきたと感じています。
中出: 確かに、AIが営業を“人間的”にするというのは象徴的です。テクノロジーの話に見えて、実は人と組織の文化をどう変えるかという問いに行き着く。まさに、AI活用の難しさもそこにあると感じます。
磯和: 課題は技術そのものよりも文化や考え方のほうにあります。特に金融業界は、どうしても減点主義の文化が根強い。だからこそ、AIのように未知の領域を扱うときは心理的な壁が大きいんです。でも、挑戦した人を評価する加点主義に変えなければ、新しい価値は生まれないと思っています。
中出: 以前は「セキュリティだから無理」と言われることが多かったのが、今は「どうすれば安全にできるか」に議論が変わっています。否定から建設的な探求へ。これが変革のサインですね。
磯和: 私たちは「成果が出ないと減点」ではなく、挑戦そのものを加点項目として位置付けています。小さく始めて学びを次に生かす。その循環を回せるかどうかが、最終的な競争力を決めます。安全に使える環境を整え、現場が“自分で触れる”状態をつくることも、その一部です。
もう一つ重視しているのが、囲い込まないこと。パートナーとのコラボレーションは、最初からメリット・デメリットを厳密に詰めるより、まず動かして、得られた知見で判断する方が圧倒的に早い。
6〜7年前までは社内も正直“せこかった”(内向きで自前主義が強かった)ところがあり、すぐに「カニバる(既存を食う)のでは?」という議論になりがちでした。今はこうした発想を脱し、外部と連携して学びを共有する文化へと確実に変わってきています。
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