店員がボタンを押すだけで、あっという間に炒飯が出来上がる──。コンビニ大手ローソンで、調理ロボットの導入が進んでいる。
同社は、各店舗での出来立てメニューの提供にこだわってきた。7月にはTechMagic(テックマジック、東京都江東区)が開発した調理ロボットを「グリーンローソン 北大塚一丁目店」(東京都豊島区)に導入。ロボットを使って、店の厨房で炒めた定番メニュー全14品の販売を始めている。
このロボットの導入には、かつて「プレミアムロールケーキ」を大ヒットさせた仕掛け人、ローソン インキュベーションカンパニー事業開発部の鈴木嘉之参事が携わってきた。コンビニの厨房が今後、どう変わろうとしているのか。その最前線に迫った。
鈴木嘉之 大学卒業後に百貨店に入社。2003年にローソンに転職して以来、デザートや弁当など新商品の開発一筋で歩んできた。16年ほど前に大ヒットした、生クリームを使ったプレミアムロールケーキを開発。経験を買われてローソンの傘下に入った成城石井に出向した。現在はインキュベーションカンパニー参事として、新規業態の開発に携わる人手不足が続くコンビニ各社は、店舗での省力化が大きな課題となってきた。外国人スタップの採用やセルフレジ機の導入によって、何とかしのいできたものの、それだけでは限界を迎えている。さらなる効率化を求められていた。
今回の取り組みには、出来立てメニューの提供というローソンの特徴を、調理ロボットの導入によりさらに発展させたい狙いがある。これまで培ってきた店内厨房のノウハウとテクノロジーを組み合わせることで、出来立てメニューのおいしさと店舗の生産性向上を追求してきた。
ローソンは2030年に向けた中期経営方針「ローソングループ Challenge2030」で、ロボットやデジタル技術によって店舗のDXを進め、2030年度に店舗オペレーションを、2024年度比で30%削減する目標を掲げている。全店平均日販は、同じく2024年度比で30%増となる70万円超を目指す。
全国の約1万4000店舗のうち約9600店には、厨房設備を活用した「まちかど厨房」がある。まちかど厨房には、揚げ物用のフライヤー設備と業務用の電子レンジを備えている。厨房スペースを持つ小売店の中で、厨房のある店舗数は国内最大規模だという。この厨房を使って、2021年11月から出来立て料理を提供する宅配向け調理事業も展開してきた。いわゆるゴーストレストランだ。
現在はこのうち、約1200店舗が厨房でスタッフが作った炒飯やパスタ、弁当を「Uber Eats」で365日24時間宅配。主要なレストランが閉店になった後の時間帯も、宅配している。そのため、深夜や早朝に食事が必要になる客層を中心に、販売が伸びているという。
しかし、このサービスを提供するためには、メニューが作れるスタッフを養成しなければならない。それなりのコストと時間が掛かってしまう。そこで目を付けたのが、人手でなくてもスタッフが誰でも「ボタンを押すだけで」作れる調理ロボットだ。
各種ロボットを開発してきたTechMagicの技術を応用したのが、からあげクンを作るロボットだった。ロボットを使った次の改革として、これまでは熟練技が必要だと言われてきた焼き飯など「炒め物」に挑戦することに。
調理ロボットのコンセプトは「誰でも同じものが簡単に作れる」だ。熟練技が不可欠と言われてきた炒め物作りについて、炒める温度・時間、火加減など「鍋さばきを徹底的に分析した」(鈴木参事)という。その結果、1分半から2分半の調理時間で、誰がやっても安定して同じ味の炒め物ができるロボットを開発した。開発期間は約半年。鍋の中での具材の攪拌(かくはん)、加熱、調理後の鍋の洗浄といった一連の動作を自動的にこなすのが特徴だ。
「炒め物」をロボットが作れるようになれば、「スープ、パスタなどメニューの範囲を大幅に増やせます。他のコンビニやレストランと戦う上での武器になります」(鈴木参事)と指摘する。ローソン各店舗には、TechMagicが最初に開発した調理ロボット「I-Robo」を、調理ロボット1号店となったグリーンローソンには、使いやすくコンパクトにした進化版の「I-Robo2」を設置した。
「焼きチャーハン」を作る作業は、こうだ。計量したご飯と具材、ネギ、調味料などを事前に準備。タッチパネルに表示されたメニューから選び、パネルに表示された指示に沿って具材、調味料を鍋に投入するだけ。2分ほど加熱して出来上がったら、容器に盛り付けをする。鍋はロボットが自動で洗浄してくれる。このため、スタッフは面倒くさい容器の洗浄作業からも解放される。
調理ロボットが作った「焼きチャーハン」の味は、熟練職人が作るものと変わらないようで、来店するお客には好評だそうだ。現状では来店は7〜8割で、モバイルオーダーによる注文が2〜3割と、来客の比率が高いという。鈴木参事は「調理ロボットで作る料理の評価が定着すれば、モバイルの比率が増えるのではないか」と将来を見据える。
「店舗に来るお客さまは、お昼時などに集中します。今後は、モバイルオーダーを増やしていきたいと考えています。オペレーションが安定してくれば、メニューの幅を広げられますし、安定的にサービスを提供できます。全ての店舗に調理ロボットを入れることは考えていませんが、必要とされる店舗には順次、拡張していきたい」
この調理ロボットは12月25日現在、ローソンのほか、ラーメン専門店の「一風堂」の全国8店に、「大阪王将」にもそれぞれ導入されてきた。外食店舗の効率化と差別化の切り札になる可能性がある。
店舗スタッフが手掛けていたテーブルへの食事の配送などを、ロボットで行うレストランが徐々に増えてきている。大半のレストランでは、調理師の資格を持ったコックなど専属のスタッフが料理を作るのが常識だった。しかしローソンでは、調理という人間しかできないと思われてきた作業領域を、ロボットに代行させようとしている。
実際に調理ロボットで「焼きチャーハン」を作るのは、ローソンの店のレジ業務などを行う普通のスタッフだ。調理免許など特別な資格は持っていない。持っていなくてもできるほどに、マニュアル化された仕事になっている。調理場での業務はこれまで、立ちっぱなしの重労働になってしまいがちだった。熱湯などにさらされるリスクもある。このロボットを使えばそうしたリスクを大幅に軽減でき、スタッフの健康管理上でもプラスだ。ひいては離職率の改善にもつながる可能性がある。
この調理ロボットは単なる調理という一つの仕事の省力化だけでなく、店舗全体の省力化につながる一歩になりそうだ。調理の重労働から解放されたスタッフは、より付加価値を生み出す仕事に就けるようになる。労働集約産業と言われ、生産性の低さが指摘されてきたコンビニ業界。効率向上につながる取り組みは、広まるのか。
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