日本のインバウンド市場が記録的な拡大を続けている。日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2025年1月から11月までの訪日外国人旅行者数(推計値)は過去最高の3906万5600人に達し、前年同期比17.0%増となった。
こうした中、リッチモンドホテルを運営するアールエヌティーホテルズは、2025年12月1日に東京・浅草にある「リッチモンドホテル浅草」の全館リニューアルを実施した。
最大の特徴は客室構成の転換だ。同ホテルは2012年の開業時、ビジネス客を想定したシングル主体の客室構成だった。しかし近年、浅草店ではインバウンド利用者が全体の7〜8割を占める状況へと変化。これを受け、2室を1室につなぐ改装を実施し、複数名で宿泊できる客室を拡充した。結果として客室総数は減少した一方、1室あたりの面積と利便性を高める方向へ舵を切った形だ。
なぜ、このような宿泊床数を削減する思い切ったリニューアルに踏み切ったのか。同社の本山浩平社長に観光ビジネスの動向も踏まえて聞いた。
本山浩平(もとやま・こうへい)1978年生まれ。2003年にロイネットホテルへ入社。2008年「リッチモンドホテルプレミア武蔵小杉」開業支配人。2016年ロイヤルホールディングス財務・IR担当。2021年にアールエヌティーホテルズ代表取締役社長に就任。2025年3月よりロイヤルマイナーホテルズ代表取締役社長を兼任。福岡県出身――今回のリニューアルは、計画的に実施したものなのでしょうか。
施設のリニューアルは基本的には年数を決め、何年かおきに一度という形で計画を立てており、今回はその一環になります。当社では目安として7年というサイクルを定めていました。ただ、コロナ禍で中断してしまった期間がありまして、本来であれば7年から10年くらいで実施していくところが、結果として浅草は少し後ろ倒しになった経緯です。
――具体的にどんな点を変えたのでしょうか。
特徴的な点がいくつかありますが、分かりやすい例ですと、もともとは縦に2室に分かれていたところを、1室としてつなげる改装をしています。リッチモンドホテル浅草の開業は2012年なのですが、当時の浅草は、今ほどインバウンドの顧客がいる状況ではありませんでした。どちらかというと、リッチモンドホテルの従来の利用者、つまりビジネスユースを想定していたので、シングル主体の構成だったのです。
一方で、今はビジネスというよりレジャーの顧客が中心になっています。そうした顧客にとっては複数名で泊まれる部屋のニーズが高いので、今回のリニューアルでは、複数名で宿泊できる客室を一部増やしました。
――いわば客室数を減らし、1部屋を広くした形になります。反響はどうですか。
非常に受けは良いですね。もともとは手前と奥で1部屋ずつあるような構造で、入口も別にありましたが、シングルとしては十分な広さがあっても、2人で使うには使い勝手として厳しいところがありました。そうした課題もあって、2室を1室につなげる形にしています。
――ターゲットとしては、地方から来る国内客や、インバウンドが中心になりますか。
国内ですと地方からの利用者ですし、メインはやはりインバウンドになると考えています。インバウンドの国や地域については、ホテルによって違いはあるものの、東京では東アジアや東南アジアの利用者が非常に多いです。欧米の利用者も多い構成ですね。地方に行くと、よりアジア比率が高まる傾向があります。
――日中関係が冷え込んでいる報道もあります。個人客のキャンセルなど、目に見える変化はありましたか。
私どもはもともと、団体の利用者を積極的に取りにいくモデルではありませんので、直接的な影響はそこまで大きく受けていないと見ています。ただし、マーケット全体として影響を受ける可能性はありますので、その点は注視しています。現時点では、直接的な影響は限定的です。
個人客のキャンセル数で見ると、2025年11月中旬に、海外の旅行サイトからの予約キャンセルが瞬間的に増えた事実はありました。ただ、経営に大きく影響を与えるような水準ではなかったと考えています。キャンセルが増えたのは事実としてありますが、それが何と因果関係があるのかについては、正直なところ断定は難しいです。
――東京はホテル価格が上がり、浅草はインバウンド比率7〜8割と極端に高いと聞きます。リッチモンドホテルの状況はどうでしょうか。今回のリニューアルで特にインバウンド向けに訴求したポイントはどこですか。
全社のインバウンド比率は約25%、つまり4分の1程度がインバウンドです。ただ、もちろんホテルごとに濃淡があります。浅草に関して言えば、だいたい7〜8割がインバウンドです。
浅草に宿泊するインバウンドの多くは、日本に初めて来る観光客が比較的多いのではないか、というペルソナで捉えています。ですので、館内に入った瞬間から日本、東京、浅草を感じられるように、ロビーを含めて空間全体の体験価値を高めることを意識しました。例えば1階ロビーでは、浅草の今と昔を重ね合わせた絵画を中心に空間を構成し、浅草らしさを感じられるデザイン要素も取り入れています。
――ホテルによってインバウンド比率の高低が大きく分かれる印象があります。その違いはどこから生まれるのでしょう。
やはり立地は大きいと思いますし、インバウンドの利用者にとって使いやすいかどうかという点もあると思います。予約する際に、アクセスや周辺環境、予約のしやすさなどを含めて、ホテルとしての使いやすさを評価しているのではないでしょうか。
――海外の利用者を取り込む上で、訴求力として重要になるのはどんな点ですか。
インバウンドも国内利用者と同様に、口コミをしっかり見て予約します。特にインバウンドからすると、自国にはないローカルのホテルチェーンを選ぶのは、相応にハードルがあると思います。私たちも海外で知らないホテルを予約するときは不安になりますので、その感覚は共通だと思います。
だからこそ、インバウンドに必要な情報をきちんと出していくことが大事です。日々の運営の中でレピュテーション、つまり良い口コミを積み重ねていくことが重要だと考えています。
――この感覚は、日本人が海外で知っているホテルチェーンを選ぶ感覚と同じなわけですね。
そうですね。知っているホテルの方が安心するというのはあると思います。その安心感を超えて選んでいただくためには、情報発信や口コミが必要になります。
――口コミは、どこでの評価が特に重要になりますか。
主には、いわゆるOTAと呼ばれる旅行予約サイト内の口コミですね。最近ですとGoogleの口コミもありますので、そうしたところは私どもも非常に重視しています。
――日本国内だと価格重視で選ぶ人も多い一方、海外旅行では安心感を優先して口コミを見て選ぶ、という傾向もあります。
その傾向はインバウンドだけに限らないとは思うのですが、やはりレジャー目的の宿泊は「失敗できない」といいますか、滞在全体の満足度を左右します。宿泊は旅行の中でも重要な要素なので、多少価格が前後しても、安心できるホテルを選ぶという行動につながっているのだと思います。
――日本へのリピーターが増えて、地域のイベントなど体験型の観光にインバウンドの目的がシフトしていると聞きます。そのあたりのターゲット設計はどう考えていますか。
リピーターの方々は、どちらかというと地方で受け入れていく形がよりフィットすると見ています。どうしても東京や大阪、京都は、日本への「入り口」としての役割が強いので、まずは初めて日本を訪れる方のニーズに応えることを、浅草のようなエリアでは特に意識しています。
――競合には外資系ホテルなどもあります。リッチモンドホテルとしては今後どんなポジショニングを目指しますか。
当初のリッチモンドホテルは、ビジネスパーソンが日本のどこに行っても安心して泊まれる位置付けが中心でした。ただコロナ禍以降、出張需要は中長期的に減少していく一方で、国内レジャーやインバウンドは増えていく流れがあります。そうした環境変化を踏まえると、ホテルチェーンとしてリポジショニングしていく必要があると考えています。
その上で目指したいのは、用途がビジネスでもレジャーでも、国内の利用者でもインバウンドの利用者でも、そこにリッチモンドがあれば不満なく泊まれて安心できるチェーンホテルです。ホテルによってはターゲットを絞るケースも出てきますが、基本的には幅広い利用者に選ばれることを前提に、これまでシングル主体だった構成を見直し、複数名需要にも対応できるようにしていきます。
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