AI時代に人間らしい働き方を再設計する「ジョブ・クラフティング」のすすめ
【開催期間】2026年1月27日(火)〜2月25日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【概要】仕事の「やらされ感」を「やりがい」に変えるアプローチとして「ジョブ・クラフティング」が注目されています。AIが定型業務を代替する今日、人間は仕事の「意味」を再定義する力が問われています。高モチベーションな業務への集中にはAI活用による効率化も必須条件です。本講演では、職場のレジリエンスを専門とする研究者が、AI時代に従業員の意識と行動を変える実践論を解説します。
市場調査、競合分析、戦略立案──。ChatGPTやGeminiに質問すれば、たいていのことは答えてくれる。かつては何日もかけていた作業が、数分で終わる時代になった。AIに聞けば何でも分かる時代に、わざわざ現場に行く必要はもうないのか。デスクでAIと対話していれば、十分な知見が得られるのか。
この問いを考える上で、注目すべき研究がある。2024年7月、英国とカナダの研究チームがNature誌に発表した論文だ。彼らは、AIが自ら生成したデータで学習を続けると、世代を重ねるごとに出力の質が劣化していくことを実証した。この現象は「モデル崩壊」と呼ばれている。
研究者のジャサン・サドウスキー氏は、この現象を「ハプスブルクAI」という造語で表現した。近親婚を繰り返して遺伝的多様性を失い、衰退した欧州の王家になぞらえた表現だ。
興味深いのは、AI自身がこの劣化に気付けないという点だ。出力は一見もっともらしく、洗練されてさえ見える。しかし、現実世界とのズレは静かに、確実に広がっていく。人間がAIに頼り、その出力をもとにコンテンツを作る。そのコンテンツをまた次のAIが学習する。このループが続けば、AIは現実から切り離された存在になりかねない。
だからこそ、現場が重要になる。AIがアクセスできない「生の現実」に触れること。その価値は、むしろ上がっている。本稿では、現場に行くべき理由を3つの観点から深掘りする。
現場に行くべき理由は暗黙知、セレンディピティ、コミットメントの3つだ。
哲学者のマイケル・ポランニー氏は「私たちは語ることができる以上のことを知っている」と述べた。「分かる」と「できる」は違う。自転車の乗り方をいくら説明されても、すぐには乗れない。こうした言語化できないが確かに知っている知識を「暗黙知」、言語やデータで表現できる知識を「形式知」と呼ぶ。
AIが扱えるのは形式知だけだ。データベースに格納された情報、テキスト化された知識。それは膨大だが、世界の全てではない。経営学者の野中郁次郎氏が監修した『組織は人なり』(ナカニシヤ出版、2009年)では、暗黙知の例として一流レストランのシェフが挙げられている。レシピは形式知だが、同じレシピで作っても、シェフが作る料理はそれぞれ違う。火加減、塩の振り方、盛り付けの一瞬の判断。それらは本人も完全には説明できない。それが暗黙知だ、と。
現場には「まだ言葉になっていないもの」がある。現時点のAIは、そこにアクセスすることが難しい。
AIは最短距離で答えにたどり着く。余計なノイズは省く。それが強みだ。
しかし、イノベーションの歴史を振り返ると、重要な発見の多くはノイズから生まれている。1970年、米国人ビジネスパーソンのバーナード・サドウ氏は家族旅行の帰り、プエルトリコの空港で、重い旅行カバンを両手に抱えて歩いていた。ふと目をやると、職員が重い機材を台車で軽々と運んでいる。その瞬間、「カバンに車輪を付ければいい」というアイデアが浮かんだ。これがキャスター付きスーツケースの誕生だ。
職員が台車を使っている光景など、普通なら気にも留めないノイズだ。しかし、そのノイズが革新を生んだ。これがセレンディピティ、つまり思いがけない発見である。英ケンブリッジ大学の研究によれば、このセレンディピティには3つの類型がある。
・アルキメデス型:探していた答えが、思いがけない場所で見つかる
古代ギリシャ、アルキメデスは王冠が純金かどうか調べる方法を探していた。思いがけず答えが見つかったのは浴槽の中だった。水位の変化というノイズが答えをもたらした。
・ポストイット型:探していたものとは別の答えが見つかる
3Mの研究者スペンサー・シルバー氏は強力な接着剤を作ろうとして失敗した。だが失敗というノイズが、後にポストイットを生んだ。
・サンダーボルト型:何も探していないのに、問題と答えが同時に見つかる
先ほどのキャスター付きスーツケースがこの例だ。台車を使う光景というノイズが、革新を生んだ。
AIは効率化のためにノイズを除去する。しかし、イノベーションの種は、しばしばノイズの中にある。現場に身を置かなければ、こうした偶然の発見は生まれない。
AIはコストを最小化する。調査も、分析も、作成も、かつての何分の一かの時間で終わる。それは素晴らしいことだ。しかし、コストを削ることで、同時に失われるものがあるのだ。
「100件の現場を回ってきました」と「AIに聞いてみました」。仮に同じ情報を持っていたとしても、言葉の重みが違う。なぜか。
経済学と生物学で発展した「コストリー・シグナリング」という概念がある。時間や労力をかけた行動ほど、相手から信頼されやすいことを学術的に研究した理論だ。コストを伴う行動は、本気でない人には模倣が難しい。だからこそ、その行動自体が「本気度の証明」として機能する。
同じ用件でも、“わざわざ”会いに行く人とオンラインで済ませる人では、相手の受け取り方が変わる。手書きの手紙とメールも同様だ。“わざわざ”に込められた時間と労力──そのコミットメントが、言葉に力を与えている。自分で足を運んで得た知識は「自分のもの」になり、提案の場で、言葉の説得力が変わるのだ。
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