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「正論」で人は動かない 子どもの肥満率改善に挑むドバイ大型スーパーの「体験設計」、何がすごい?がっかりしないDX 小売業の新時代(1/3 ページ)

» 2026年02月06日 06時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2026冬 開催決定!

学研が挑む"真のDX"──「本当に使われるデジタル」で目指す教育価値のバリューアップ

【開催期間】2026年1月27日(火)〜2月25日(水)

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【概要】学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。


 小売DXは、「アプリを作る」「会員基盤を整える」「データを集める」といった道具・手段の導入の話に寄りがちです。

 しかし、現場で成果が出るかどうかは、技術そのものよりも「顧客の行動が変わったか」で決まります。デジタルは実装手段に過ぎません。今回はドバイにできた子ども向けスーパーの事例から、「行動変容」を起こすための体験設計について考察します。

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX


日常のルーティンを変える“仕掛け”を提供 子どもの「肥満」に課題

 ドバイにおいて、ドバイモールの次に巨大な「モール・オブ・ジ・エミレーツ」は、屋内スキー場「Ski Dubai」を併設する大型モールです。館内にフランスのスーパーであるCarrefour(カルフール)も入っています。店舗の運営主体は、中東でカルフールからライセンスを受けて運営しているコングロマリット(複数業種を束ねて投資・運営までを担う巨大企業体)のMajid Al Futtaimです。

 カルフールの中には「Bright Bites」という子ども向けの店舗内店舗があります。Bright Bitesは、子どもが主役の買い物体験を通じて、食の選び方を変えることを狙った取り組みです。運営主体のMajid Al Futtaimは「子どものために設計された世界初のスーパーマーケット」と位置付けています

 重要なのは「世界初」かどうかではありません。Bright Bitesが食育を、知識付与ではなく「行動変容」へつなげるために、店舗をどう設計したか──ここがポイントです。

カルフール モール・オブ・ジ・エミレーツ店内のBright Bites(2025年10月 筆者撮影)

 UAE(アラブ首長国連邦)では、子どもの過体重・肥満が大きな課題になっています。World Obesity Federation(世界肥満連盟)のUAE国別PDFでは、13〜17歳について、過体重または肥満(overweight or obesity)が38.4%と記載されています。

 この数字は、学校教育だけで何とかする領域を超えています。また、「健康意識を高めましょう」という啓発だけで解消するのは難しいでしょう。生活行動の修正を、日常の場で、継続的に起こす仕組みが必要になります。

 小売が取れるアプローチの一つが、買い物行動の再設計です。

 鍵になるのは、家庭内の反復行動、つまり「毎日の買い物」「毎日のランチ」「毎日の間食」です。Bright Bitesが注目に値するのは、そこに介入している点です。

 Bright Bitesの公式サイトによると、子どもは店内で食材を選び、ランチボックスをデザインし、遊び、学び、ランキング(リーダーボード)で進捗を見て、料理体験まで行います。

 公式発表では、Bright Bitesはランチボックス作りの課題(栄養バランスと嗜好の両立)を解決することを狙うとされています。店舗で買い物の練習をし、料理体験で成功体験を積み、家に持ち帰って再現する──。ここが「食育」と「行動変容」の接続点です。

 栄養の正しさは知っている。しかし、家庭のルーティンが変わらない。だから結果が変わらない。Bright Bitesは、ルーティンの入口(買い物)に仕掛けを置き、行動を変える導線を作っています

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