冒頭でも書いたように、企業のハイパフォーマーへの投資が加速している背景には、「AIを使いこなせるか否かで、創出される成果に圧倒的な差が生じる」という現実があります。
国際通貨基金(IMF)の論考で紹介されているスペインでの実験の事例を紹介します。大学のディベート大会に生成AI(ChatGPTなど)を導入したところ、「もともと能力の高いディベーター」は勝率が有意に上昇した一方で「能力が低い層」には大きな変化が見られませんでした。詳細を分析すると、AI利用によって向上したのは「論理性」「反論力」「説得力」でした。
これはAIが生成する無数の選択肢の中から「どの論点を採用すべきか」「どういう構成にすれば説得力が増すか」を見極める高度な判断力と編集力を持つ人材ほど、AIを“てこ”にしてパフォーマンスを伸ばせることを示唆しています。
つまり、AIは「平均的な能力を底上げする」のではなく「もともと高い判断力を持つ人の成果を増幅させる」のです。ここから、企画や戦略立案といった業務においては、まさに「AIのアウトプットの上限は使い手の能力で決まる」と言えるでしょう。
これらを総合すると、AI時代の労働市場は「スーパースター企業×スーパースター人材×AI」という組み合わせによって、ごく少数のハイパフォーマーが巨大な成果と報酬を獲得する構図へ向かうと予測されます。
企業における「少数精鋭化」とAIによるホワイトカラー業務の代替が進む中、労働市場全体には大きなひずみが生じています。それが、「ホワイトカラー余剰」と「エッセンシャルワーカー不足」という構造的なミスマッチです。
厚生労働省の「一般職業紹介状況」(2025年5月時点・パート含む)による職種別有効求人倍率を見ると、そのコントラストは衝撃的です。
事務職は1人の求職者に対して約0.4件しか仕事がなく、激しい競争状態にあります。一方で、建設や警備などの現場業務は5倍前後の求人を募集しており、深刻な人手不足に陥っています。
オフィスワーク領域では、AIやSaaSの普及により「人間が介在しなくてもよい業務」が増加しました。かつて10人で処理していた経理業務が、システム化により数人で回るようになった事例は枚挙にいとまがありません。対照的に、介護、物流、建設といった生活インフラを支えるエッセンシャルワークは、AIによる完全代替が難しく、依然として「人の手」が必要です。
リクルートワークス研究所の試算では、2040年には物流や介護などで約1100万人の労働供給不足が発生すると予測されています。「オフィスには人が溢れ、現場は人が枯渇している」――これが日本の労働市場の偽らざる実態です。
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