なぜ一線を越えてしまうのか プルデンシャル生命、モームリ……不祥事を生む“歪んだ成功体験”のワナ働き方の見取り図(2/2 ページ)

» 2026年02月12日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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不正を繰り返させる「隠蔽の成功体験」

 さらに、共通する背景がもう一つあります。不正のリピートへと誘う最後の一押しとなるのが、不正が外部に知られなかったという隠蔽(いんぺい)の成功体験です。

 不正に手を染めれば良い思いができると頭に浮かんだとしても、明るみに出ることで多くのものを失うリスクが実行を思いとどまらせます。しかし、背に腹は代えられない状況に陥ったり、不正を隠蔽できる自信があったりすると一線を越えやすくなります。そして実際に隠蔽できると、それこそが決定的な成功体験となって不祥事は繰り返されるのです。

 望む成果→副次的利益→隠蔽という3つの歪んだ成功体験がひと回りすると、2周目に突入するハードルは大きく下がります。2周目もコンプリートすると歪んだ成功体験がさらに強化され、3周目、4周目と繰り返されていきます。恐ろしいのは、何周もするうちに罪悪感が麻痺していくことです。そうなると、自力で循環を止められなくなります。

 罪悪感が麻痺すると、限りなくブラックに近いグレーな行為でも「その程度のこと」と認識するようになります。忠告する声が聞こえても、「これまでもなんとかなってきた」「心配し過ぎ」と受け流し、やがて一線を越えて完全な不正行為になったとしても、関係者たちはごまかすための言い訳が上手くなったりして、いつの間にかその状態が組織風土になります。

 企業理念や経営方針などで表向きは「コンプライアンスの徹底」とうたっていても、本音と建前を使い分けることが大人の流儀であるかのように職場内で正当化され、外面と内面との乖離(かいり)が常態化してしまうのです。

photo02 露見しなかったという隠蔽の成功体験が、不正行為の反復と常態化を招き、組織風土を歪めていく(提供:ゲッティイメージズ)

組織が壊れる前に止められるか

 不正が常態化した組織は、解体でもされない限り浄化は極めて難しくなります。その手前で手を打たなければなりません。

 方法は大きく2つあります。意思決定権者が過ちに気付いて方向を修正すること。そして、過ちに気付いている周囲の関係者が意思決定権者を説得することです。

 しかし、組織の意思決定権者や単独犯が自力で方向修正するのは簡単ではありません。自分自身を客観的に見ることは、極めて難しいからです。それができるのであれば、最初から不正行為に手を染めたりしないとも言えます。

 自らを客観視する方法があるとするならば、いま自らが取り組んでいる仕事について、家族や親しい友人など大切な人たちに胸を張って説明できるかどうかを時折自問自答することです。少しでも心に引っ掛かれば、そこに修正すべき余地が生まれるかもしれません。

 組織内での力の差を考えると、社内の人が意思決定権者を説得するのは大変なケースも多いでしょう。内部の話し合いで解決の目途が立たない場合、外部の協力を得る方法も考えられます。

 横浜市では人事部長が市長のパワハラを告発したことを受け、第三者による調査を求める決議案が市議会で可決されました。事実は内部の人にしか分からないことですし、組織内で話し合いをして改善できるとよかったと思いますが、横浜市の事例は、外部に告発することで解決につながる可能性があることを示しました。

 外部への通報は、組織を壊す行為ではなく、取り返しのつかない事態を防ぐための最後の安全弁とも言えます。

 また、不正行為は隠蔽工作がなくても繰り返されることがあります。不正がオープンに行われているにもかかわらず、世の中で問題意識が高まるまでに時間がかかるケースです。

 かつて水俣病などの公害がそうであったように、問題自体はすでに生じていたとしても認識が広がるまでにタイムラグが生じることがあります。パワハラやセクハラなどもそうです。職場で横行していたにもかかわらず「受け流してこそ一人前」などとされ、長く問題視されてきませんでした。

 組織内に改善を訴える声があったとしても、意思決定権者が「大した問題じゃない」と突っぱねて終わると、歪んだ成功体験となってしまい不正が繰り返されることになります。結果、対処が遅れて傷口を広げ、やがて社会で問題意識が高まったころには取り返しがつかない事態に陥ってしまうことになりかねません。

 いまも職場には、フタをし続けられている“未来の大問題”が転がっている可能性があります。

 しかし、組織内で苦言を呈する存在は煙たがられがちです。1on1や360度評価、部下が上司を選べる制度などを導入しても、意思決定権者が聞く耳を持っていなければ形骸化して機能しません。

 中にはガス抜き目的で、「そうだね」と耳を傾けたフリだけして、改善行動に移さない意思決定権者さえいます。苦言に対して、エゴで不満をぶつけているだけだと決めつけ、組織のためを思って進言する社内野党の声に耳を傾けられなくなっているとしたら、残念ながら浄化への道はすでに絶たれてしまっています。

 特に事業が急拡大しているなど、勢いに乗っている最中は足元がおろそかになりがちなだけに要注意です。事業や仕事が順調に推移している組織や個人、さらには解散総選挙で躍進した政党や当選した国会議員こそ、歪んだ成功体験のワナに最も気を付ける必要があるのかもしれません。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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