経営と人事が向き合うべきテーマは、「ベースの賃金をいくら上げるか」ではありません。以下2つのトレンドを踏まえ、自社の賃金レンジや報酬アーキテクチャ全体をどう再設計するかという問いです。
これは単なる「手取りを厚く見せる施策」ではなく、月例給、賞与、評価差の設計を根本から組み替える制度改定です。
先述したWTWの調査によると、日本企業では約9割が固定的に支払う賞与を持っています。他方、外資系ではサインオンボーナス(入社時支度金)の導入が約8割に達しており、日本企業は依然として「柔軟なボーナスよりも固定的な賞与」に偏重しています。
IT・デジタル人材市場のように「オファー時の年収の可視性」「月額の見え方」「オファーの即応性」が重視される市場では、この構造が採用競争力の弱点になりやすいのです。
初任給引き上げの影響は「新卒採用の問題」だけにとどまりません。賃金レンジ全体の再設計を迫る圧力です。
先述の通りIT・デジタル人材を起点に初任給が急上昇していますが、その結果、中堅レンジ、管理職レンジ、評価差設計まで巻き込んで賃金カーブがいびつになっていきます。初任給バブルは、もはや「新卒に高く払う」という局所的な話ではなく、自社の報酬体系全体のバランスをどう取り直すかという全社課題となりつつあります。
では、一律で配らないなら、どう配るのか? 経営陣や労働組合と議論する際、私は今年のベア原資を以下の「3つのバケット(用途別の配分枠)」に分けて整理することをお勧めします。
目的:納得感・離職抑制の土台作り
施策:一律ベア(薄く広く)、あるいは下位等級レンジへの厚め配分、賞与の給与化など。毎年の最低限の約束に相当します。
目的:管理職逆転、初任給圧縮といった社内構造の不具合の解消
施策:特定の給与レンジ拡張、等級設計見直し、管理職の報酬設計など。初任給引上げに伴う賃金カーブの見直しも本バケットで検討します。
目的:マーケットに負けない、事業戦略に必要な人材へ原資を寄せる
施策:中途採用レンジの市場補正、重点部門・ハイパフォーマーへのターゲット配分など。
時間軸で整理すると「Aは毎年のベース」「Bは数年がかりの制度改定」「Cは事業戦略と連動」となります。時間軸と目的を分けて語ることで、労使交渉でも説明が通りやすくなります。
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ベア「全員実施」67%、初任給引き上げ83% 賃上げの原資はどこから?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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