こうした「一律ベアからの脱却」や「賃金カーブの再設計」を1年で一気にやろうとすると、現場も労働組合もハレーションを起こします。「ベアが数年続く前提」を逆手に取り、原資が足し算になるタイミングだからこそ直せるカードとして、以下のような計画で進めることが考えられます。
まずは現状のゆがみを見える化します。管理職逆転や評価差の有無に加え、今年は以下の診断項目を追加してください。
「全員一律+ターゲット配分」の運用へ移行します。生活防衛の最低ラインは押さえつつ、痛みが少なく効きが大きい「管理職逆転の是正」や「中途市場補正」に原資を振り向けます。
役割・職務の棚卸しを行い、職種ごとの給与レンジの再設計、報酬ミックスの再編(賞与の給与化など)、評価制度の再設計(メリハリづけ)など、本格的な制度改定を実行します。
毎年のベアが「会社からの恩恵」ではなく、「年次の配分判断(ポートフォリオ・マネジメント)」へと定着します。「生活防衛バケット」は物価に応じて毎年確保し、「構造是正バケット」は数年計画で進め、「競争力バケット」は市場に応じて機動的に配分するサイクルが完成します。
最後に「会社としての“賃上げの約束の仕方”を変えましょう」というメッセージを伝えます。
初任給引き上げのバブルは、企業側だけでなく候補者側の期待値そのものを押し上げています。従業員の期待値も放置すれば「来年も同じだけ一律で上がる」が既成事実化してしまいます。
だからこそ、来期の労使交渉や社員へのメッセージを発信する場では「インフレに対応する生活防衛の最低ラインは会社として守る」「だが、それ以上の原資は、今年解決すべき社内の人材課題の是正に配分する」「役割を果たし、評価された人がしっかり上がる(メリハリの効いた)設計にする」といったコミュニケーションをとることも一手です。
これまでは、制度を改定しようとすると「誰かの給料を削って誰かに回す(不利益変更)」になりがちで、反発を生んでいました。
しかし今は違います。「初任給を上げる」ことと「賞与を月給に寄せる」ことは、どちらも賃金レンジの再設計を迫る同じ圧力です。ベアという「毎年の足し算の原資」がある今だからこそ、誰も血を流さずにこれらを一体で扱い、人事制度のゆがみを直すことができるのです。
毎年の賃上げを「コスト」と捉えるか「組織を強くする資本」と捉えるか。今年の労使交渉と原資配分のテーブルが、その分水嶺になります。
GrowNexus代表取締役
デロイトトーマツコンサルティングにて14年間のコンサルティング経験を経て、GrowNexusを設立。
多様な業界の大手企業・官公庁・自治体に対し、人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。近年はDX推進に加え、デジタル人材戦略から採用・配置・育成・評価・処遇に至る一貫した支援を実施。経産省・IPAのデジタルスキル標準策定も支援しており、デジタル時代の人材・リスキリングに特に強みを持つ。GrowNexusの代表として、伴走・成長支援型のサービスと、テクノロジーを融合した新しいサービスを提供。
著書に『未来のキャリアを創る リスキリング』『地銀”生き残り”のビジネスモデル 5つの類型とそれらを支えるDX』『働き方改革 7つのデザイン』他。
「10年目なのに大手新卒の方が給与が高い」 春闘“歴史的な賃上げ”の裏であぶり出される「負け組企業」の特徴
ここ数年で変わった企業の賃金 コロナ後も続く「賃上げ」の流れ
ベア「全員実施」67%、初任給引き上げ83% 賃上げの原資はどこから?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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