米AIスタートアップのAnthropic(アンスロピック)は、これまでに公開したどのモデルよりも高性能な次世代AIモデルの開発を進めており、すでに一部の顧客とテストを開始していることを認めた。皮肉にも、このモデルの存在は、同社の偶発的なデータ漏洩(ろうえい)によって明らかになったものだ。
同社の広報担当者は、この新モデルについて「AI性能における非連続的な飛躍(ステップチェンジ)を象徴するもので、当社がこれまでに構築した中で最も高性能なモデルだ」と述べた。
このモデルに関する機密情報は、誤って誰でもアクセス可能な公開キャッシュに保存されており、米Fortune誌がその内容を確認した。機密情報は2026年3月26日(木曜日)の夕方まで、セキュリティ保護がなされていない公開ストレージに放置されていた。そのブログ記事の草稿には、新モデルの名称が「Claude Mythos」(クロード・ミュトス)であること、そして前例のないサイバーセキュリティ上のリスクをもたらす可能性があることが記されていたのだ。
Fortuneの通報を受けたAnthropicは、即座に当該データへのアクセスを遮断した。同社は声明で、コンテンツ管理システム(CMS)の設定における「人的ミス」により、公開前のブログ草稿が閲覧可能な状態になっていたことを認めた。流出した資料については「公開を検討していた初期段階のドラフト(草稿)」であると説明している。
流出した草稿では「Mythos」という名称に加え「Capybara」(カピバラ)と呼ばれる新たなモデル階層についても言及されていた。
現在、同社はモデルを「Opus」(最上位)、「Sonnet」(中位)、「Haiku」(普及版)の3段階で展開している。草稿によれば「Capybara」はOpusを上回る新たな最上位層に位置付けられ、その分、運用コストも高価になるという。
「従来の最高モデルであるClaude Opus 4.6と比較して、Capybaraはソフトウェアコーディング、学術的推論、サイバーセキュリティなどのテストで劇的に高いスコアを記録した」と草稿には記されている。また、Claude Mythosのトレーニングはすでに完了しており、「当社が開発した中で、圧倒的に最も強力なAIモデル」と表現されていた。
同社は取材に対し「推論、コーディング、サイバーセキュリティの分野で有意義な進歩を遂げた汎用モデルを開発中だ。その能力の高さを踏まえ、公開方法については慎重に検討している」と回答した。Fortuneが確認した資料は、Webサイト公開用のデータ形式になっており、見出しや公開予定日も含まれていたことから、製品発表の準備が最終段階にあったことを示唆している。
一方で、この新モデルは重大なサイバーセキュリティリスクを伴う可能性がある。流出文書には「Claude Capybaraの公開にあたり、特にサイバーセキュリティ分野における短期的なリスクを理解し、防御側が備えられるよう結果を共有したい」との記述があった。 Anthropicは、このモデルが「サイバー能力において他のどのAIモデルも大きく引き離している」と分析。「脆弱性を突く能力が、防御側の対応をはるかに上回るペースで進化する『AI攻撃の波』が到来する前兆だ」と警告している。
つまり、ハッカーによる大規模なサイバー攻撃に悪用される懸念があるということだ。そのため、初期の段階では公開範囲を防御側の組織に限定。「AIによる攻撃に備えて、自社のコードの堅牢性を高めるための先行的機会を提供する」という、極めて慎重なロールアウト戦略を計画している。
今回の情報漏洩では、技術情報だけでなく、同社の営業戦略の一端も露呈した。公開状態にあった文書からは、英国で開催予定の、欧州企業のCEOを対象とした招待制リトリート(経営者合宿)の詳細も明らかになった。
この2日間のイベントは、英国の田園地帯にある18世紀の邸宅を改装した高級ホテルで開催され、Anthropicのダリオ・アモデイCEOも出席する予定だ。欧州の有力なビジネスリーダーを招き、未公開のClaudeの機能を体験させるなど「親密な対話」を通じて、大企業顧客への販売を加速させる狙いがあるとみられる。
今回の失態は、セキュリティと安全性を売りにするAI企業であっても、CMSの設定といった「足元の人的ミス」が最大の脆弱性になり得ることを改めて知らしめた形だ。
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