ミトスの能力の高さは、米国政府すら揺さぶっている。
2026年2月、ピート・ヘグセス国防長官が「AI企業は利用制約を外せ」というメモを発出していたことが大きなニュースになった。というのも、米軍が使っていたAnthropicのAI「クロード」について、利用する際の条件を同社が決めていたからだ。米国市民に対する大規模な国内監視と、人間の関与を排除した完全自律兵器としての利用を禁じる、というものだった。
ヘグセス国防長官は契約の条項として、クロードの無制限利用を認めるよう要求した。同社がその要求に応じなかったことから、国防総省は契約をしないと決め、事実上、米軍のシステムから追い出すことになった。
ところが、国防総省傘下の情報機関であるNSA(国家安全保障局)は、ミトスの能力を高く評価し、導入を決めた。米軍トップの判断を覆すほど、ミトスが高い能力を示している証左である。
一方、ベンジオ氏が懸念するように、企業がAIの利用方法を決めてしまうことにも違和感が残る。AI開発の進化が速いため、こうした議論が追いついていない。一刻も早い議論が必要ではないだろうか。
今回、ミトスの一般利用は封印された。だが今後、同等の能力を持つモデルが他社から登場するのも時間の問題だ。Anthropic自身が「能力が制御を追い越した」と認めた以上、サイバーセキュリティの世界も元には戻らない。AIに置いていかれないような対応が求められる。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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