企業が直面する「人手不足」「業務の非効率性」といった課題を解決するため、DXの必要性が叫ばれてから随分と時間がたった。依然としてDXが進展しない背景の一つに「伝統的な商習慣」「アナログな業務プロセス」などの壁がある。
同様の課題を抱えていたのが、創業65年を迎えた海上輸送の老舗、協和海運(東京都港区)だ。取扱量が増える中、通関業務のDXが急務だった。しかし「紙と電卓による手続き」「部署をまたぐ台帳リレー」の変革は簡単ではない。
そこで同社は、DXプロジェクトを立ち上げた。現場から上がる戸惑いの声に対応しながら、4カ月かけて取り組みを推進。ついに「取扱量6倍」「工数約5分の1」という成果を手にした。
協和海運は、いかにしてDXを成功させたのか。老舗企業がテクノロジーを受け入れ、組織を生まれ変わらせるまでの軌跡を追う。
本記事は1月27〜2月25日に開催した「ITmedia デジタル戦略EXPO 2026冬」内の講演、協和海運(Shippioグループ)の松本和男氏による「日本DX大賞受賞|抵抗、戸惑い、そして覚悟ー老舗企業がDXを受け入れるまでの700日」の内容を記事化したものです。
通関業務は、輸出入の際に税関から許可を得るための手続きを指す。対応できるのは国家資格「通関士」のみで、属人化しやすい性質があるという。書類審査が基本のため、現場では長年、紙書類に定規で線を引き、電卓で計算する手作業が主流だった。
しかし、通関業務に限界が訪れる。国内の通関件数は2010年からの約13年間で約8倍に増加した一方、通関業に携わる人材の数は横ばいで推移している。人は増えないのに仕事量が増える構造により、従来のアナログ手法では業務が破綻しかねない局面を迎えていた。
協和海運の社長・松本和男氏は「私が海運業界に入った15年前から仕事のやり方がほぼ変わっていない。協和海運も『変わらない、変われない課題』を抱えていた」と説明する。
松本氏はもともと、協和海運と同じグループ会社で、貿易DXを手掛けるShippio(東京都港区)に所属していた。2024年、協和海運のDX推進室長として出向。改革を進めようとしたが、突然現れた“DX推進担当”に対する空気は重く「孤独を感じていた」と振り返る。
現場になじむため密にコミュニケーションを取る中で、同氏が見つけた「一番の問題点」が、紙の台帳「手板」(ていた)だった。手板は通関に必要な全書類を挟んだ台帳で、案件ごとに作成する。手板を社内の担当部署で回しながら、手続きを順番に進める業務フローだった。
手板が特定の部署で滞留すると、後続の担当者は作業できない。手板が毎日押し寄せては山積みになり、優先順位が付けられず、上から処理するしかないと松本氏は語る。
「『山積みされた手板の下から3番目が実は特急案件でした』といったことがあり、まるで『宝探し』のような状況になり、対応し切れないケースがあった。手板を何とかなくせないか、方法を模索し始めた」(松本氏)
松本氏は、各部署から人員を集めてDX推進プロジェクト「NEW WAVES」を始動した。現場を否定しないよう「改善」ではなく「新しい波を起こす」という意図を込めたという。
NEW WAVESで掲げたミッションは「紙台帳の廃止」「通関案件のデータベース管理」だ。まず、成文化されていなかったワークフローを可視化して、問題点を見つけることから始めた。次に、大量の積荷をさばきながら、業務改革やデータ移行の際のリスクを洗い出した。
プロジェクト推進も一筋縄ではいかなかった。それまで話し合いの文化がなかった同社において、プロジェクト関連のミーティングが現場の負担になったという。一部からは「ミーティングが多すぎて実務に影響が出ている」という意見が寄せられた。松本氏は、そうした声に耳を傾けつつ、強い意思でプロジェクトを進めた。
もう一つ、現場を悩ませたのがダッシュボードへの移行期に、アナログ作業とデジタル作業を両方とも行わなければならない「ダブルスタンダード」が発生したことだ。二重業務の負担に加え、手書きに慣れている従業員がデータ入力に移行する難しさもあった。
こうした課題を一つずつ解決して、ついに「デジタルダッシュボード」が完成。約4カ月の試験期間を経て本番運用に移行した。松本氏は「年末の繁忙期に、積荷の1件もミスすることなく完璧にハンドリングできた」と胸を張る。デジタル化したことで、毎年恒例になっていた年末の休日出勤をなくせたという。
「この成功体験によって社内のギアがかみ合い、DX推進のスイッチが入った。皆が定期的に改善フィードバックを回して、ブラッシュアップしてくれるようになったことに驚いた」(松本氏)
協和海運は、DXの経験を基に、AI通関サービス「Shippio Clear」をグループ会社のShippioと共同開発した。現場から「通関士の仕事を奪うのか」という不安の声が出たというが、松本氏はそれを否定する。
「最終チェックなどは通関士の深い知識と経験が必要だ。単純作業から解放され、削減できた時間を使って顧客へのコンサルティングなど新たな価値提供に生かすこともできる。模索中の部分もあるが、新たな一歩を踏み出せている」(松本氏)
松本氏は、協和海運のDXを振り返って「ローマは一日にして成らず」という言葉を残した。一気に進めるのではなく、信頼関係を築きながら歩むことが重要だという。現場の通関士へのリスペクトを忘れず、先進テクノロジーを導入した点がDX成功の秘訣(ひけつ)と言えよう。アナログな作業や長年の商習慣に悩む企業にとって、協和海運の取り組みは手本の一つになるはずだ。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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