給与を自己申告にすると「全員が上限まで希望額を釣り上げ、会社が破綻するのではないか」という懸念が生まれるだろう。しかし、木村石鹸工業ではむしろ社員が驚くほど経営の数字にシビアに向き合っているという。その理由は、同社の「予算策定プロセス」にある。
通常、企業は売り上げ目標から逆算し、人件費の上限(労働分配率)を決める。だが同社は逆だ。
1.社員から申告された給与を基に「人件費」が確定する
2.そこに必要な「固定費」や会社としての「営業利益」を足し合わせる
3. それらを賄うために必要な「限界利益額」を算出する
4. 限界利益を達成するための目標(予算)を逆算して設定する
つまり、全社の売り上げ目標は、社員たちが申告し、承認を得た給与の総額から生まれている。目標を達成できなければ自分たちの給与の原資が確保できない構造を、社員全員が本質的に理解しているのだ。これを支えるため、同社は売り上げなどのデータを商品別・チャネル別・日別に全社員へリアルタイムで公開している。さらに、会社経営の数字のつながりを社員が学ぶための研修も実施している。
自己申告型給与制度を導入してからの6年間で、一度だけ目標利益に届かない年があった。通常、業績不振の際に、企業から一方的な減給を突きつけられれば、不満が残る社員もいるだろう。しかしこの時、翌期の給与査定で多くの社員が「昨年は約束したチャレンジが未達だったため、今年は現状維持でいきます」と申告したという。
「会社から与えられた給与ではなく、自ら提案した約束だからこそ、ピンチの時に自分ごととして向き合い、会社を立て直そうとする意志が生まれるのです。自己申告型給与制度は、リスクもあります。しかし、存続の危機など、会社のピンチの時、主体的に考えられる社員がいることは大きな強みになります」
木村社長は、これからの組織づくりの在り方を「料理から発酵へ」という言葉で表現する。
「従来のマネジメントは“料理”のようです。良い素材(人材)を集め、決められたレシピ(マニュアル)に従い、適切な管理のもとで調理する。一方、自律型組織は“発酵”です。経営者の仕事はレシピ通りに人を管理することではなく、良い菌が活発に活動できる環境を整えることです」
環境をつくったら、あとは余計な手出し(過度なコントロール)をせず、信頼して見守る――じっくりと時間をかけることで、やがて成果が自然と生まれてくる。
「心配」ではなく「信頼」を組織運営の土台に据える――木村石鹸工業の挑戦は、形骸化した人事評価や硬直した組織に悩む経営者に、新たな組織づくりのヒントを示している。
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