宣伝費は2020年2月期の77億円から、2025年8月期には145億円へ増えています。一方、売上高に対する宣伝費率は1.1〜1.8%の範囲に収まっています。
この数字から分かるのは、広告費を積み上げることで売り上げを伸ばしてきた企業ではないということです。無印良品は広告を使っていないわけではありません。無印良品週間、ブランド広告、SNS、アプリ、ECなど、顧客接点への投資は続けています。
それだけでなく店舗の外観、売場、商品パッケージ、紙袋、アプリまで、顧客が接する全てがブランド体験となり、広告の役割を果たしています。つまり「広告を見て店舗へ行く」のではなく「店舗そのものが広告になっている」のです。
宣伝費率を大きく高めなくても売り上げを伸ばせる背景には、このようなブランド設計があります。国内のMUJIアプリの年間アクティブユーザー数は1750万人に達しています。もっとも、重要なのは会員数以上に、店舗、EC、在庫、商品開発まで顧客データをどこまで循環させられるかでしょう。
良品計画の10年間を象徴するのは、2016年対比で店舗数186%、売上高255%、売上総利益268%という3つの力強い成長です。
こうした数字から見えてくるのは、小売業の競争力は店舗数や売上規模だけでは測れないということです。商品力はもちろん重要です。しかし、それだけでは利益は生まれません。調達、生産、物流、在庫、売場づくり、海外ローカライズなど、一つひとつの改善を積み重ねて初めて、ブランド価値は利益という数字へ変わります。
無印良品が長年掲げてきた「これで良い」という思想も、単なるデザインや世界観ではなく、その裏側にある経営全体の合理性によって支えられているのでしょう。
今回あらためて10年間の数字を追ってみて感じたのは、良品計画は「ブランドをつくる会社」ではなく、「ブランドを利益へ変換する仕組みを磨き続けてきた会社」だということです。その積み重ねこそが、店舗数以上に売り上げを伸ばし、それ以上に粗利を伸ばしてきた最大の理由ではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
佐久間俊一(さくま しゅんいち)
レノン株式会社 代表取締役 CEO
城北宣広株式会社(広告業)社外取締役
著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。
グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティングにて小売企業を担当するセクターのディレクターとして大手小売企業の制度改革、マーケティングシステム構築などDX領域のコンサルティングを多数経験。世界三大戦略コンサルファームとも言われている、ベイン・アンド・カンパニーにおいて2020年より小売業・消費財メーカー担当メンバーとして大手小売企業の戦略構築支援及びコロナ後の市場総括を手掛ける。2021年より上場会社インサイト(広告業)のCMO(Chief Marketing Officer)執行役員に就任。
2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。
2019年より1年半に渡って日経流通新聞にコーナーを持ち連載を担当するなど小売業には約20年間携わってきたことで高い専門性を有する。
日経MJフォーラム、KPMGフォーラムなど講演実績は累計100回以上。
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