AIやデータの活用により、金融機関の融資や与信判断の在り方が変化し始めている。金融機関はこれまで、財務諸表などの定量データをベースに膨大な時間をかけて審査をしていた。しかし生成AIの普及により審査業務が効率化され、短期間・少額の融資やデータ駆動型のデット調達(ベンチャーデットなど)が広がりつつある。
従来は融資を受けにくかった中小企業やスタートアップが、資金調達しやすい環境が整い始めた。特集では、取材を通じて、AI時代の「カネを貸す条件」について考えていく。
第2回:早大教授に聞く AIが発展するほど「経営者の資質」が問われるワケ
第3回:稲葉納豆工業所の資金調達の裏側
第4回:Zehitomoが引き出したデータ駆動型融資(本記事)
ハイリスクとみなされがちなスタートアップに対し、従来の銀行は融資に慎重だ。
仮に審査が進んだとしても、融資実行まで最低でも3カ月の期間を要する。だが、景気変動や市場リスクに備えるため、手元資金の確保は一刻を争う。
プロの事業者とユーザーをつなぐビジネスマッチングプラットフォーム「ゼヒトモ」を手掛けるZehitomo(東京都品川区)では、黒字化を目前に控えた局面で手元資金の拡充を検討。融資の壁を打ち破ったのは「データ駆動型融資」(ベンチャーデット)だった。りそな銀行からの紹介を受け、フィンテックベンチャーのFivot(東京都港区)が運営する「RFC Venture Debt Fund 1号投資事業有限責任組合」(以下、RFC Venture Debt Fund)を活用した。
RFC Venture Debt Fundは膨大な入金データなどから、決算書だけでは見えない信用力や将来性をAIで解析し、わずか1カ月で数千万円規模の融資を決定した。AI時代において、スタートアップの資金調達はどのように変化しつつあるのか。Zehitomoのファイナンシャル・ディレクターを務める永尾陽平氏にその舞台裏を聞いた。
ゼヒトモは、さまざまな業種のプロ事業者とユーザーをつなぐマッチングプラットフォーム。2015年に2人のアメリカ人が「日本人の働き方をもっと自由に、もっと豊かにしたい」との思いからサービスを開始した。
マッチングプラットフォームでは、契約が成立した際に事業者が手数料を支払う「成約課金型」が一般的だ。それに対してゼヒトモは、事業者がユーザーに紹介された時点で課金される「応募課金型」を採用している。紹介後は何度やり取りや取引を重ねても追加課金は発生しないため、事業者はリピーターを増やすほど利益を確保しやすい仕組みとなっている。Zehitomoの永尾氏がその狙いを説明する。
「日本の事業者の方々は、米国と比較して圧倒的に技術レベルが高く、仕事に対する誠実さやこだわりをお持ちです。一方、リフォーム業界などの構造的な問題もあり、営業力を発揮しきれず下請けでの受注にとどまり、本来得られるべき利益率が低くなってしまっている現状があります。この課題を解決し、優れた技術に見合った適正な対価を得ていただくために、当社では低手数料かつAIを活用した高精度なマッチングサービスを提供しています」
ユーザーがある業種のプロを探そうとすると、ゼヒトモから最大で5つの事業者を紹介される。事業者の基本情報や料金などは事前に登録されていて、ユーザーが知りたいことを聞くとAIが自動回答。マッチングの際に「情報の非対称性」を解消できるのが大きな特徴だ。
現在登録している事業者は15万社で、年間で5万〜6万人のユーザーが利用している。今後の事業拡大のコアと位置付けているのがリフォーム業界であり、この領域に深く根差すことによって収益基盤を構築し、IPO(新規上場)も視野に入れている。
一方で、事業を力強く成長させるには、手元資金の安心感は不可欠だ。しかし、金融機関はリスクの高い企業には貸したがらない。スタートアップへの融資は金融機関にとってハイリスクになりがちなため、金融機関から融資を得るためのハードルは高い。仮に話が進んでも融資決定までに最低でも3カ月はかかるという。
永尾氏は、3年前からZehitomoで財務管理や資金調達、それに法務や経営企画と幅広い分野を担当してきた。その中で、金融機関からの風当たりの強さを感じてきたと話す。
「私たちは黒字化目前ではあるものの、いろいろと波もあるので、ファイナンスとしては常に“最悪のケース”を考える必要があります。同時に、手元資金があることによって安心感にもつながりますし、次の動きが全く違ってきます。そこで資金調達は常に検討してきましたが、スタートアップに対する金融機関からの風当たりはやはり強いですね。かつて在籍していた大手企業で資金調達をする場合とは、全く違うと感じました」
資金調達の方法を模索する中で、永尾氏がりそな銀行から紹介されたのが、RFC Venture Debt Fundだった。RFC Venture Debt Fundはスタートアップが株式を発行せずに、融資型で資金を調達できるデータ駆動型のデット調達(ベンチャーデット)サービスを提供している。
永尾氏が驚いたのは、その審査の方法だ。融資を申し込む際に、決算書や資金繰り表、商業登記簿謄本などの一般的な書類に加えて、10万件以上の入金データの提出が求められたと永尾氏は明かす。
「ゼヒトモには、年間で2万〜3万件の入金データがあります。決済代行会社のサービスを利用しているので、このデータを抽出し、数年分にあたる10万件以上のデータを提出しました。これは金融機関の審査項目にはないデータです。RFC Venture Debt Fundには、大量のデータをAIによって分析できるツールがあります。当社の入金データから、入金がどのように発生しているのかといったトレンドなどを見て、信用力や将来性などを評価していただきました」
さらに永尾氏が驚いたのは、融資決定までのスピードだ。審査を開始してから、融資が実行されるまで1カ月しかかからなかった。
「データをお渡しして十数回ほどのやりとりがありました。レスポンスも非常に早く、審査開始からわずか1カ月で数千万円の融資を受けることができました。このスピード融資は、銀行ではできないことだと思います」
Zehitomoでは、株式を発行するエクイティ調達の累計が37億円に上る。りそなホールディングス傘下のりそなキャピタルが株主になっている実績があり、りそな銀行からRFC Venture Debt Fundの紹介を受けた経緯があるという。
ただ、エクイティ調達だけでは課題も残る。デット(融資)も組み入れることのメリットを、永尾氏は次のように感じているという。
「一定規模の株主がいる場合、ベンチャーキャピタル(VC)からの無計画な調達は、株式の希薄化を招くため、慎重な株主と拡大優先の株主で意見が割れることがあります。その点、デットでの調達であれば、株主構成や議決権比率に影響を与えずに資金を確保できるメリットがあります」
「IPO(上場)時に、株主の大半が短期的なリターンを求めるVCで占められていると、上場後の売り圧力を警戒されて株価形成に悪影響を及ぼすリスクがあります。事業シナジーを見込める事業会社などの『中長期的なパートナーとなる株主』を見つけるのは容易ではありません。そうした最適な株主選定や条件提示の時間を稼ぎ、短期的な財務リスクを抑える意味でも、デット調達は極めて有効な選択肢だと考えています」
もちろん、デットが合うかどうかはビジネスモデルにもよる。永尾氏は、Zehitomoの事業がデットと親和性があったのではないかと分析する。
「一般的な長期ローンでは、これまでの決算実績や担保に加え、経営者や企業そのものの信頼性が重視されます。一方で、今回の資金調達では、顧客から継続的に得られる収益(リカーリング・レベニュー)やリピート率といった、事業の再現性と成長性を示す『リアルタイムなデータ』が主な審査軸となったと思います」
ゼヒトモがマスをターゲットとしたビジネスモデルで、データドリブンな環境だったことも、大きなポイントになったと感じている。
「大口の顧客に依存するビジネスであれば、審査項目は通常の融資とあまり変わらなかったかもしれません。データとAIの活用が、ビジネスモデルと資金調達の両方を後押ししてくれています」
デットをはじめ、スタートアップが資金を調達しやすい手段は格段に増えている。永尾氏は「新たな資金調達の手段に挑戦してみることが大事」と話していた。ビジネスモデルも、融資審査も、AIの進化とともにこれからも変わっていくだろう。
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