同社では「AIは将来、ExcelやWordのように誰もが使うツールになる」という考えのもと「DXリーダー人財育成プログラム」を実施した。
対象としたのは、全社員の2割にあたる、管理職と事務・営業職の9人と現場リーダーの7人。普段からPCなどの情報機器を使う社員たちだ。
研修は生成AI活用支援を手掛けるTENHO(東京都渋谷区)と共同で設計。受講者は約6カ月間の研修を通じて、コンテンツを受講しながら生成AIの基礎を学び、ツール開発を体験する。
管理職や事務職には、独自チャットbotや業務改善アプリの開発スキル習得を目標として設定。一方、現場リーダーにはAIを身近に感じ、自ら改善提案ができるようになることを重視した。
AIスキルの学習と併せて、業務を棚卸しする時間も設けた。参加者は、自分の仕事の中で時間がかかっている業務や改善したい業務を書き出して「AIで解決できるか」を整理し、その上で、小さなチャットbotや簡単なアプリを1人1つ作る課題に取り組んだ。
小川氏は「最初から大きな成果を残してもらうというよりは、まずはAIに触れ、その中から1人でも2人でも長けた人が出てくれば十分だと考えていました」と振り返る。
実際にはプログラムを受けた16人全員がチャットbotやツールを作成。現在も継続的に利用されているAIツールが5件ほどある。安全や品質に関する研修資料をAIで作成するといった活用も広がりつつあるという。
こうした研修時間を確保するためにも、先にDXによって残業を減らし、生まれた時間を学習へ回すという順番を重視した。
「生産性が上がれば時間が生まれる。その時間を次の改善や学びに投資するという考え方です」(小川氏)
AIを活用した内製化は、本業以外の事業にも広がっている。
現在は、自社工場をショールームとして公開し、DXの取り組みを見学できるプログラムや、内製化支援、人材育成研修なども展開している。自社で開発したツールについても実証を進めており、小川氏は「2〜3年で数億円規模の事業になる可能性がある」と見込む。
こうした新規事業は利益率が高く、製造設備への再投資にもつながるという。
また、DXをきっかけにこれまで接点のなかった自動車部品メーカーとの取引も生まれ始めた。工場見学を通じて加工技術を知ってもらい、新たな製造案件につながるケースも出てきているという。
AI活用が進む製造現場で、これから求められる人材とはどのような存在なのか。
小川氏が重視するのは、外部からAIに詳しい人材を招き入れることよりも「現場を知っている人がデジタル技術やAIを使える」ようになることだ。
同社が進める新規事業化においては、自社開発したツールを外部提供する際のセキュリティ管理などの場面で、AIの知見に長けた人材を外部から登用する必要性も出てくると小川氏は話す。一方で、自社の製造現場におけるDX推進では、現場を知る社員だからこそAIを使えるようになることに意義があると強調する。
「現場で何が起きているかを理解していないと、本当の課題は見えてこない。(日々の作業で発生する)歩行距離を減らす、材料供給のタイミングを変えるといった改善は、現場経験があるからこそ気付ける」(小川氏)
製造現場では、日々の業務の中で感じる小さな違和感や改善の余地を見つけることが重要になる。AI活用は、そうした課題を解決するための手段となる。
これまで製造現場では、経験を積んだ熟練者が改善を支えてきた。今後はそこにデジタルやAIの知識が加わることで、現場の経験を生かしながら新たな改善を生み出す人材の重要性が高まっていくと小川氏は考える。
同社の取り組みは、製造業におけるAI活用が、現場の知見と組み合わさることで新たな価値を生み出せる可能性を示しているといえそうだ。
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