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人は増やさず年商12倍へ 「伊勢の食堂」の逆転劇に学ぶ、地方企業の“依存しない”戦い方DXで仕事を無くす(1/3 ページ)

» 2024年08月19日 08時00分 公開
[仲奈々ITmedia]

 伊勢神宮の参道に立つ、創業100年を超える老舗食堂「ゑびや」。

 観光客に人気を博しているこの食堂は、10年ほど前には経営が傾き事業縮小の危機に瀕(ひん)していたという。経営を立て直した立役者が、元ソフトバンク社員の小田島春樹氏だ。

DX 伊勢神宮の参道に立つ、創業100年を超える老舗食堂「ゑびや」(提供:ゑびや、以下同)

 2012年、小田島氏がゑびやに入社した当時は、店舗にはPCすらない状態だった。近隣店舗と差別化を図ろうと試行錯誤するものの、できることが限られており、「安いけれどおいしくない店」と揶揄(やゆ)されることも……。隣店は大繁盛しているにもかかわらず、自店には客が入らない状況が続いていたと言う。

 小田島氏はそんな厳しい状態をDX推進で立て直すことに成功。事務作業のDXや独自のBI(ビジネスインテリジェンス)ツール開発で無駄な作業を徹底的になくし、2012年からの12年間で年商を12倍に成長させた。

 今回は、ゑびやの成功事例から、人手不足が慢性化する地方企業が勝ち抜くための“戦い方”について考えていく。

そろばん・手作業の売り上げ管理……事務作業のDX、どう進めた?

DX 小田島春樹代表取締役社長

 小田島氏は以前、ソフトバンクで人事として活躍していた。その傍ら、個人でもインターネットを活用したビジネスにチャレンジしていたという。

 「私たちの世代は、幼い頃からインターネットが身近にありました。だから、以前から強い興味はあって。これを使えば、何か面白いことができるんじゃないかと、常日頃考えていましたね」

 そう語る小田島氏がソフトバンクを退職し、次に籍を置いたのが「ゑびや」だ。当時のゑびやは、注文は手書きの食券、売り上げの計算にはそろばんを使うなど、小田島氏が慣れ親しんだインターネットの世界とは程遠い環境だった。また、約40人いた従業員のほとんどがパート・アルバイトで、数人いる社員は調理師。経理や発注などの事務は経営陣の仕事だった。経営や戦略を考え、従業員をリードしていくはずの経営陣が日々の事務作業に追われている。そのため、周囲の飲食店との差別化を図れず、苦しい時期が続いていた。

 「当時の状態を立て直すには、売り上げと利益を上げていかなければならないのは明白でした。そのためには、経営陣が情報収集したり、戦略を立てたりする時間が必要です。その時間をとるために、事務作業の効率化に着手しました」

DX 重さをはかるツールを活用して在庫管理

 まずは、簡単にできることから始めていったという小田島氏。例えば、これまで手作業で行っていた売り上げ管理をExcelでの管理に変更。クラウド型のタイムカードを導入した。その他にも、受発注システムや会計ソフトの導入により、事務作業をどんどんDXしていった。

 そして事務作業の仕組みが整ったら、アウトソーシング会社にほぼ全ての作業を委託した。これにより、「事務作業に追われて、情報収集や戦略を立てる時間がない」という課題を解決したのだ。

DX 経営陣が事務作業の忙殺されていた状況を、DXとツール活用で解決した
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