あらゆる角度から事務作業をDXし、ゑびやの経営は徐々に回復していった。ここで気になるのは、DXのための資金だ。苦しい状態が続いていたゑびやだが、どこから資金を調達したのだろうか。
「まず前提として、地方の中小企業にはよくある話なのですが、“借り入れ”はほとんどしないんです。だから、自分たちの力で資金を生み出す必要がありました」
当時のゑびやの事業は、食堂の運営のみだった。小田島氏は、食堂の前に“屋台”を設置し、テークアウト事業をスタート。そこでの売り上げを、DXに充てようと考えたのだ。
「最初は、発案者の私一人で屋台の運営を行っていました。ある程度仕組みが整ってから、アルバイトの方たちに手伝ってもらって。そこから、一気に売り上げが伸びましたね」と小田島氏は当時を振り返る。
この屋台は大きな成功を収め、年間の売り上げは約3000万円に上った。1000万円程度の投資資金を捻出し、無事にDXを進めることができた。余談だが、その後も試行錯誤を続けながら屋台を拡大していった結果、現在では屋台のみで年間1億円を超える売り上げがあるのだそうだ。
できることから取り組んでいこう、と始めたゑびやのDX。順調に事務作業は効率化されていき、予算も十分にある。小田島氏が次に取り組んだのは、独自のBIツール「TOUCH POINT BI」の開発だった。
POSデータや天候情報、通行量など、さまざまなデータを統合・分析してくれるこのBIツール。売り上げ予測や適正な仕入れ量、シフト作成など、幅広いバックオフィス業務をサポートする。
現在はゑびや社内はもちろん、外販も行っているという。小田島氏はなぜこのツールの開発に着手したのだろうか。
「私が入社して以降、ゑびやではExcelで売り上げや利益などの情報を管理していました。ただ、Excelだとどうしてもできることに限界があり、管理も煩雑になりやすい。そんなとき、個人でインターネット販売をしていた際にGoogle Analyticsを活用していたことを思い出しました」
「リアル店舗でも、Google Analyticsのような管理・分析ができる便利なツールはないのかと探してみたのですが、ヒットしなくて。そこで、『ないなら自分で作ろう』と思ったんです」
Google Analyticsのように、単なる売り上げデータだけでなく、多様なデータを統合・分析できるツールを目指した「TOUCH POINT BI」。開発にあたって特に注目したのが、Google Analyticsで言うところの“アクセス数”の代替となる指標。つまり、店舗の前を通行する人数だ。開発当初は、小田島氏が自力で通行量を数えていたこともあるそうだが、現在はAIを活用し、自動的に計測できる仕組みを取り入れている。
TOUCH POINT BIを使用することで、店舗ではさまざまなデータに基づいた運営が可能になった。販売データの分析による需要の可視化で食品廃棄率は大幅に減少し、来客予測による適切なシフト作成で人件費の削減もできたそうだ。
「このツールを必要としているのは、ゑびやだけではないはず」と考えた小田島氏は、TOUCH POINT BIの開発・販売を行う株式会社EBILABを設立し、外部にも提供している。飲食・小売業界だけでなく、自治体などさまざまなジャンルの企業に導入され、事業成長のサポートをしているそうだ。
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