2025年10月の本格導入後、効果が表れているのが、荷物をトラックへ積み込む際の検品時間だ。少なくとも1回の引っ越しにつき5分、作業時間を短縮できているという。
池田氏が重視するのは、自社の作業時間だけではない。長距離輸送を担うドライバーの負担を減らすことだ。背景には、物流業界の人手不足や、トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用された「2024年問題」がある。
「作業時間を短縮し、ドライバーの負担を減らす。それによって、協力会社から『アート引越センターの仕事なら引き受けやすい』と思っていただき、選ばれる会社になる。そこも重視しています」(池田氏)
実際に、ドライバーからは「積み込みが楽になった」「待ち時間も短くなった」といった声も寄せられているという。
また、システムの導入により、誤配送件数を約8割削減できる見込みだという。誤配送が発生すれば荷物を回収して本来の届け先へ運び直し、顧客への説明なども必要になる。こうした事後対応には、1件当たり約3時間を要していた。誤配送件数が想定通り減れば、事後対応にかかる時間も年間約2400時間削減できると試算している。
アート引越センターでは、顧客向けサービスでもテクノロジーの活用を進めている。2024年5月に提供を始めた「ぐるっとAI見積り」は、顧客がスマートフォンで部屋を動画撮影すると、AIが家具や家電などを自動で識別し、荷物量を算出するアプリだ。アプリ内で引っ越し料金を見積もり、そのまま申し込みまで完結できる。
同社は、2024年に経済産業省のDX認定制度に基づく「DX認定事業者」に認定され、全社的にDXを推進してきた。DXに取り組む狙いはどこにあるのか。
その背景には、創業当時から受け継がれてきた企業文化がある。創業から間もない時期、まだ「IT」や「DX」という言葉すらなかった時代に、同社は当時のオフィスコンピュータや基幹システムの整備に数億円を投じた。
「人間の手でしかできないことは人が担いつつ、システムの力でできるところはシステムに任せるという考え方は、当社のDNAのようなものです。トップが明確な方向性を示しているからこそ、社員も迷わず進めるという側面もあります」(小野山氏)
同社にとってDXは省人化のための取り組みではない。人にしかできない作業に人が集中できるよう、デジタルで周辺業務を支える取り組みだ。池田氏は次のように話す。
「私たちが提供する引っ越しというサービスは、人の手による作業が中心であり、これからもその本質は大きくは変わらないと考えています。だからこそ、それ以外の部分でテクノロジーを活用して差別化を図ることは、お客さまに選ばれ続けることにつながると考えています」(池田氏)
同社がDXで第一に重視しているのは、顧客体験(CX)の向上だ。よりよい顧客体験を継続的に提供するためには、現場で働くスタッフの働きやすさの実現や、パートナーである協力会社ドライバーの労働環境改善も欠かせない。顧客・従業員・協力会社の3者にとって持続可能な仕組みを築いてこそ、高品質なサービスを提供し続けることができる。
「人の手」が欠かせない泥くさい現場だからこそ、デジタルで作業の正確性と効率を高め、人とサービスの価値を最大化していく――それこそが、アート引越センターがDXに挑み続ける理由であり、選ばれ続けるための強みとなっている。
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