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「残業させ放題」なのか? 厚労省「残業45時間一律指導見直し」で企業が問われる“10項目”【弁護士が解説】

» 2026年08月28日 08時00分 公開

佐藤みのり 弁護士

慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。


 厚生労働省は8月19日、時間外・休日労働について、月45時間以内に削減するよう求める一律の指導を見直すと発表した。9月1日からは、各社が36協定で定める健康と福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認し、状況に応じた必要な指導を行うとしている。

 これに対し、全国労働組合総連合は8月21日に談話を発表。今回の見直しについて「経営者の意向をくみ『実態』ありきで月45時間を超える時間外労働を合法化しようとするものであり、長時間労働解消・労働時間短縮を企業に求めてきた指導を転換・廃止する」ものとし、撤回を求めている。

 なぜ、厚生労働省は今回の見直しを実施するのか、経営層や労務担当者が気を付けるべきポイントとは? 佐藤みのり弁護士に聞いた。

rouki 月の残業は「45時間以内」の一律指導を見直し(提供:ゲッティイメージズ)

──現在の労働基準法で定められた労働時間や、残業のルールについて教えてください。

 労働時間については、法律で制限されています。原則は1日8時間以内、1週間で40時間以内です(労働基準法32条)。また、休日は原則、毎週少なくとも1回与える必要があります(労働基準法35条)。

 ただし、従業員の過半数が加入している労働組合(ない場合は、従業員の過半数の代表者)との間で、会社が「時間外労働・休日労働に関する協定」を書面で結び、労働基準監督署に届け出れば、1日8時間以内、1週間で40時間以内を超えて、または休日にも働かせられます(労働基準法36条)。この協定は、労働基準法36条に規定されていることから、「36(サブロク)協定)」と呼ばれています。

 なお、36協定に基づき、時間外労働を行わせる際には、別途、労働契約や就業規則などの法的根拠が必要となります。

 36協定があれば、いくらでも労働時間を延長できるのかというと、そうではありません。36協定によって延長できる労働時間は、原則月45時間、年360時間です。臨時で特別な事情があって、労使が合意すればさらに延長できますが、その場合も年720時間以内、ひと月で休日労働含めて100時間未満、複数月の平均休日労働含めて80時間以内といった上限があります。また、月45時間を超えられるのは、年間で6カ月までとされています。

 以上が労働時間に関する一般的なルールです。ただし、多様な働き方に対応できるように、労働基準法にはさまざまな労働時間制度が設けられており、一定の要件を満たせば導入できます。例えば、高収入の一部専門職などについて、本人の同意のもと労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」などがあります。

「残業させ放題」と考える企業が出てくる可能性も

──今回の指導見直しの背景にはどういった事象があるのでしょうか?

 前述のように、労働基準法上、36協定を締結すれば月45時間まで残業が可能です。さらに特別条項を結べば、月100時間未満まで働かせられます。しかし、これまで労働基準監督署は、特別条項を結んだ企業に対しても、時間外・休日労働時間数のみに着目して、時間外労働を月45時間以内に抑えるよう、一律に指導してきました。

 これに対し、企業側からは「厳し過ぎる」という批判や「労働時間を増やしたい」との要望があり、見直しが検討されてきました。2026年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」と「経済財政運営と改革の基本方針2026」の中で、見直しが盛り込まれ、9月1日より、時間数のみに着目した一律指導が見直されることになります。

──今回の指導見直しにより、労使の合意で月45時間を超える時間外労働が可能な企業にも、一律45時間以内とするよう求めてきた指導を取りやめるとのことです。その結果「残業規制が緩んだ」と考える企業も出てくる可能性があります。

 労働基準監督署からの指導が見直されることで、企業側が「残業が容認された」といった受け止めをして、時間外労働が促される恐れがあります。

 今回の運用見直しに対して、労働者側からは、労働者の命や健康を守るため、労働基準監督署の指導強化を求める声が上がっています。また、過労死弁護団全国連絡会議も、見直しの撤回を求めています。

 企業としては、そもそも月45時間を超える時間外労働は、過労死などのリスクを高めるという事実を認識した上で、労働者側の声に耳を傾けることが重要です。

 企業には、労働者がその生命・身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)があります(労働契約法5条)。企業が長時間労働を放置し、労働者が健康を害することがあれば、法的責任を問われることにもなります。

 また、長時間労働は、労働者のライフ・ワーク・バランスを崩すことになり、働く意欲を削ぎ、生産性の低下を招く恐れもあります。こうした事態は、企業にとっても望ましくないものであり、企業は労働者の働きやすい環境づくりに努める必要があります。

──今回の指導見直しにより、各事業場が36協定で定める「健康および福祉を確保するための措置」の実施状況を重点的に確認し、状況に応じて必要な指導を行うようになるとのことです。「健康および福祉を確保するための措置」とは具体的にどういった内容なのでしょうか? また「十分な措置をとっている」とはどのように判断されるようになるのでしょうか?

 36協定の書式の裏面(記載心得)には、健康福祉確保措置として、以下の10項目が挙げられており、(1)から(9)までの内容が一般的な健康福祉確保措置になります。

(1)労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること

(2)労働基準法第37条第4項に規定する時刻(午後10時から午前5時まで)の間において、労働させる回数を1カ月について一定回数以内とすること

(3)終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること

(4)労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること

(5)労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること

(6)年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること

(7)心と体の健康問題についての相談窓口を設置すること

(8)労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

(9)必要に応じて、産業医などによる助言・指導を受け、または労働者に産業医などによる保健指導を受けさせること

(10)その他

 健康福祉確保措置について、労働基準監督署が「十分」であると評価するかどうかは、個別の事案ごとに異なるでしょう。例えば、時間外労働が月100時間近いなど非常に長く、労働者の健康状態にも不安があるような事案では、時間外労働を短くするよう、従来通りの指導がなされることも考えられます。

──健康確保の措置が適切に行われていると認められるために、企業(特に人事・労務部門)は日頃からどのような対応をしておくべきでしょうか。

 健康福祉確保措置は、複数講じることが望ましいです。

 特に(3)の勤務間インターバル制度は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、ライフ・ワーク・バランスを守るため、有効と考えられています。勤務間インターバル制度は、現行法では「努力義務」にとどまっていますが、義務化についても議論されており、制度導入に取り組む中小企業事業主を支援するための助成金も用意されています。企業としては、労働者を守るため、早めに導入を検討するとよいでしょう。

 これに加え、各事業場の状況に応じ、必要な措置を講じることで、一層労働者の健康が守られます。例えば、事業場によっては(10)その他の措置として、週に1日程度「ノー残業デー」を設けるといった方法も考えられます。

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