目新しいものだけがDXじゃない 三井倉庫HD、DXに投じた200億円の“意外な配分”(2/3 ページ)

» 2026年09月04日 08時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

セキュリティは「自腹で守らねば」 社長と毎月のように会話

──投資配分を柔軟に変えるには、経営層との合意形成も重要だったのではないでしょうか。

 そうですね。情報システム担当の立場としては、経営層にITを理解してもらわないと、これからの時代は意思決定がおかしな方向に行ってしまうため、ITを理解してもらう取り組みが重要だと考えました。サイバーセキュリティ一つを取っても「警察がなんとかしてよ」と言えたらいいですが、自腹で守らなければなりません。これが難しく、非常にお金がかかります。

 最初のころは社長とも毎月のように話をしましたし、経営会議でも定期的にITやAI、サイバーセキュリティの状況を報告してきました。海外企業の講演動画を共有することもあります。

 私自身が意識しているのは、難しいIT用語を使わないことです。分かりやすく説明して、経営とITの距離を縮めることも役割だと思っています。

ly 経営とITの距離を縮めることも、情報システム担当の役割

──AI活用もDX銘柄選出において評価されたポイントの一つでした。

 社長が「AIはやるかどうか悩む段階ではない」と判断したことは大きかったですね。

 AI推進室を立ち上げ、まず全社員が使える環境を整えました。「Google Workspace」を利用しているので、Geminiを社内データが外部へ出ない環境で利用できるようにしています。以前は個別業務ごとの実証実験を中心に進めていましたが、その段階から「まず全員が使う」方向へ切り替えました。

 現場ではAI OCRによる文字認識や画像認識を活用しています。物流現場では、バーコードなどを持たない商材の出荷検品業務は、担当者の目視に頼らざるを得ないケースが多く、ヒューマンエラーによる誤出荷のリスクや作業者への負荷が課題となっていました。

 こうしたバーコードのない製品の検品や、化粧品ラベルの貼り付け確認、配送先の確認など、人が目で行っていた作業をAIが支援するケースが増えています。

DXの本質は「人が価値を考えること」

──社員からのアイデアも積極的に取り入れているそうですね。

 AIビジネスアイデアコンテストを実施しています。2026年1月に表彰があった第1回コンテストには、75件ほどの応募がありました。優秀作品はAI推進室が実装を支援しています。

 最近はプロンプトコンテストも始めました。業務で役立つプロンプトを社員同士で共有し、横展開しています。毎週木曜日にはGeminiやGemini Notebook(旧NoteBookLM)の勉強会、金曜日には現場からの相談会も開いています。「この業務をAIで効率化できないか」といった相談に、社内外の技術者と一緒に対応しています。

──今後の課題をどう見ていますか。

 一番の課題は人材です。AIやクラウドに対応できる人材を育てるには時間がかかります。資格取得も支援していますが、育成には3年ほど必要です。

 また、AIは便利ですが、利用料金が増えていきます。AIをどこで使い、どのサービスを選ぶのかという判断も今後の重要なテーマになります。そして、AIによって作業時間が減った従業員たちが、その時間をどう価値創造につなげるかも経営として考えなければなりません。

 DX部会などでも、ツールの使い方よりも「事業をどう伸ばすか」を議論しています。最近は、DXの本質はそこなのだと思うようになりました。デジタルはあくまで道具です。その先で、人が仕事や事業を真剣に考え、新しい価値を生み出していくことが大切なのだと思います。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR