「今のやり方で困っていない」「かえって手間が増える」──DX推進を阻む“ベテランの壁”をどう崩す?電源開発×東光電気工事×富士製薬工業が語る(1/2 ページ)

» 2026年09月07日 09時30分 公開
[濱川太一ITmedia]

 「今のやり方でうまくいっているのに、なぜ変える必要があるのか」

 DXを進める企業では、新しいツールや仕組みを現場に導入する際、こうした反応が壁になることがある。特に、長年の経験を持つベテランや管理職ほど、自分なりの仕事の進め方を確立していて、新たなシステムに抵抗を感じることがある

 発電会社の電源開発、電気設備工事を担う東光電気工事、製薬の富士製薬工業の3社では、それぞれ業務効率化ツールを導入し、現場の課題を起点に業務の見える化や効率化を進めてきた。そこには、“現場改革”を軌道に乗せるための「共通した工夫」があった。

本記事はアサナジャパン主催カンファレンス「ワークイノベーションジャパン」(8月26日開催)のパネルディスカッション「現場・ミドルからのチェンジ・マネジメント」を基に構成。


「今、困っていない」──DX推進を阻む“ベテランの壁”をどう崩す?

 電源開発の岩崎友里亜氏(DX推進室 ソリューションタスク)が直面したのは、業務の属人化を認識しながらも「今の仕事のやり方で困っていない」という社員への対応だった。

 「担当者がいて問題なく業務が回っている状況だと、将来的なリスクよりも、新しいツールの使い方を覚える負荷の方が大きく感じられてしまう」(電源開発・岩崎氏)

 ベテラン社員の経験や勘によって効率よく仕事が進んでいる場合、担当者がいなくなったときに業務が止まるリスクは見えにくい。岩崎氏は、こうした将来のリスクを「どうしたら自分事化してもらえるのか」が大きな課題だったと振り返る。

 東光電気工事の越谷健氏(DX推進部課長)も、現場の管理職が抱える難しさを指摘する。

 「現場でうまくやってきて管理職になって、自分なりの仕事の進め方を作り上げている。そこに新しいツールを入れようとすると『今のやり方でうまくいっている』『逆に入力するものが増えた』という話になってきます」(東光電気工事・越谷氏)

 しかも管理職には、自分が使い方を覚えるだけでなく、部下にも仕事の進め方を変えてもらう役割が求められる。「変革の中心になってもらわなければいけない一方で、最も負担を感じやすい」のがミドル層だという。

 一方、富士製薬工業の田賀夏海氏(経営管理部 人事グループ)は、ITリテラシーや新しいツールへの慣れに個人差があったとしながらも「課題を起点にして進める」ことで、壁を大きくしない進め方ができたと話す。

現場が「自分事化」するまで

 富士製薬工業では、まず社員の日々の困りごとを聞いて回った。すると、社内問い合わせが複数の経路から届くことや、転送作業などに時間を取られていることが分かった。

 そこで、現場の課題に対してツールを使えばどう変えられるのかを示した。同時に「より付加価値の高い仕事に時間を使っていきたい」という人事のビジョンも繰り返し共有した。

 さらに、チームごとにアンバサダーを置いた。「私が全体に呼びかけるより、同じチームの中で実際に使っていて『こうすると便利ですよ』と一緒に進めてもらったことで、浸透した」と田賀氏は話す。

 東光電気工事では、DX推進部からシステムの使い方を提案するだけでなく、現場から「こういう業務に使えないか」という声が出始めたことが転機になった。

 各支社を訪問して説明会や意見交換会を続け、活用する社員を「推進者」として増やしていった。すると、現場と事務系の社員の間で「こう使うと便利」「このExcelの業務を置き換えられる」といった会話が自然に生まれ、良い事例をテンプレート化して全社に展開できるようになった。

 電源開発でも、利用者側から「見える化っていいよね」「こういうことをしたいんだけど、どうしたらいい?」という声が聞こえるようになった。

 「私たち推進室が価値を話さなくても、利用者自身が利用者の声で価値を語り始められる状態になった。そこに確かな変化を感じました」(電源開発・岩崎氏)

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