ソニーグループは、生成AIの活用によって毎月「5万時間」の余白を生み出した。
前編:AI導入のカギは「行動変容」 ソニーグループが実践した、“現場が使いたくなる仕組み”とは?
同グループは2023年から「生成AIの民主化」を掲げ、全社員の生成AI活用を推進。全社員5万人が使いこなす体制を、予定より早く実現した。
旗振り役の大場正博氏(ソニーグループ AIアクセラレーション部門 責任者)に、これまでで一番インパクトが大きかった施策や、日々どのように情報をアップデートしているのか、“知識のリフレッシュ法”について話を聞いた。
聞き手は、エンタープライズ企業のDX推進やAI活用を支援するテックタッチ取締役 CPO/CFOの中出昌哉。
中出: ソニーグループが2023年からスタートしている生成AIの民主化では、「毎月5万時間」の業務削減という大きな効果を出しています。経営インパクトの定量化はどう設定されているのでしょうか?
大場: 定量ターゲットはいくつかの視点で設けていますが、大きく2つの方針を元に設定しています。
1つは、ソニーグループ全社視点での経済性と生産性のバランス。もう1つは、ソニーグループ全社のAI民主化、つまりAI活用のスケールです。
全社のAI活用度については、私たちのEnterprise LLMを含む主要なAIツールの利用度と活用度をモニタリングしています。利用度は、誰が、どのソリューション、どの機能を利用しているかの利用状況。そして活用度は、AIソリューションをどのように使い、どのような効果を創出しているかになります。
自社環境である、Enterprise LLMおよびGenerative AI Platformでは、毎日数万人が実行する15万件以上の推論をリアルタイムで分析しています。情報の機密性は重要ですし、情報量も膨大ですので、人の手を介することなくAIがリアルタイムに分析を行いレポートする仕組みにしています。
この分析の中で、AIがシミュレーションした生産性向上効果を削減時間で算出。これらの情報を経営陣はもちろんのこと、社内への周知にも使うことで、AI利用に対する心理的安全性を高めるとともに、効果が期待できるユースケースを紹介し、データ視点のプロモーションにも活用しています。
いたずらにAI活用を推進するだけではなく、多面的な情報の分析を通じて、活用のための啓発、ライセンス数の適正化、標準化を通じた集中購買など、経済性と生産性を両立するための施策も実行。経済面の数字も含めてモニタリングし、評価しています。
中出: 活用事例の中で、最もインパクトがあるのはどのような件でしょうか?
大場: 言語翻訳を含めた活用事例があります。ソニーグループはグローバルにビジネスを展開していますが、多くのケースでローカライゼーションが不可欠です。AI/LLMの特性を生かせば、単なる翻訳ではなく、ビジネス特性や地域性の反映、翻訳とデータ処理の同時実行などを通じて業務効率化と高度化を両立できます。
その他では、従来の技術では困難だった非構造化データの処理、例えば契約書やビジネス文書の理解、分析、比較、要約、レビュー、修正、ドラフト作成、メタデータ作成、傾向分析など、これまで負荷の高かった作業を大幅に効率化し、社員が価値を創出する業務に集中することをサポートしています。
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