年間200万件を超えるコールセンターの音声データや、社内にたまった航空券の予約データ――JALグループではこうしたデータを業務改善につなげるため、現場の担当者とデジタル部門が一緒に課題を探りながら、データの活用方法を検証している。
自然言語でデータを検索・分析できる環境の整備や、音声データから顧客の問い合わせ傾向を把握する仕組みづくりもその一環だ。現場の業務知見とデータの専門知識を組み合わせながら、実際の業務で使えるデータ活用を目指している。
そのデータ活用、AI活用は一足飛びに進展したわけではない。現場の声を聞き、課題を地道に解決していった。JALグループがかなえたDXの裏側を、JALデジタル(東京都港区)のキーパーソンが語った。
本記事は米Snowflake主催イベント「Snowflake World Tour Tokyo 2026」におけるセッション「『声』のデータを迷わず使える武器へ。JALグループが実践する現場起点のデータ変革」を基に構成。
JALグループでは、日本航空をはじめとするフルサービスキャリアや格安航空会社(LCC)のZIPAIRのほか、貨物・郵便、マイル、コマース、金融など、幅広い事業を展開している。1日平均約1000便を運航し、年間4600万人以上が利用する。連結グループ会社は50社を超え、約4万人の社員が働く。
こうしたグループ全体のデジタル戦略や開発、運用を担う体制として、2026年4月にグループのデジタル機能をJALデジタルに集約した。従来は、日本航空本体が企画し、IT子会社が開発・運用する分業体制だったが、機能や人材を集約することで、戦略策定から実行までを一貫して進められる体制を整えた。
JALデジタルでデジタル戦略部 データ活用推進グループのマネージャーを務める吉岡美江氏は、従来のDX推進について次のように振り返る。
「従来の体制では、デジタル部門と業務部門の間に少し距離があり、現場の課題が置き去りになってしまうこともありました」
そこで、各業務部門からデジタル担当者をアサインし、現場に伴走しながら課題解決を支援する体制へと転換した。データ活用推進グループも現場に足を運び、業務を理解した上で担当者とともに課題を見つけ、データを使った解決策を描いている。
その過程で浮かび上がった課題が、
(1)BIツールを使える人材が限られていること
(2)コールセンターの音声データを業務改善に生かしきれていないこと
――の2つだった。
社内には高度な分析を担う専門組織があり、業務部門にもBIツールを使う担当者がいる。一方で、データをどのように業務へ生かせばよいか分からず、分析の専門組織やシステム担当者にデータ抽出を依頼する社員も少なくない。
JALデジタルのデータ活用推進グループ チーフを務める野口真聖氏は、この状況について次のように説明する。
「社内にある大量のデータを活用するには、複雑なデータ構造やSQL(Structured Query Language)などの専門スキルが要求されます。抽出ロジックを考える負荷や特定の有識者への依存が、現場の迅速な仮説検証を阻害していました」
そこで同社は、米SnowflakeのAIプラットフォーム「Cortex AI」と、社内の業務知識を組み込んだ「セマンティックビュー」を組み合わせ、自然言語で直感的にデータ分析ができる環境構築を目指した。
セマンティックビューは、社内独自の用語やデータの意味、計算ルールなどを定義し、ビジネス上の言葉とデータを結び付ける“翻訳機”のような役割を担う。例えば、社内用語や計算ロジックを登録することで、AIが質問の意図を読み取り、適切なデータへアクセスできるようにする。
最初の検証では、過去にデータ抽出の依頼が多かった「航空券の予約データ」「顧客データ」の抽出を代替するエージェントを構築した。日々、BIツールを使う業務部門のユーザーを想定し、ミスが許されない業務を避けながら、小さく検証を進めた。
ただ、セマンティックビューを作成してAIに接続するだけで、正確な回答が得られたわけではない。初期段階では運賃種別を判別できなかったり、業務で使用しない粒度で集計されていたりと、社内特有の文脈を理解できず、回答の精度に課題があった。
そこで、データ項目の意味や社内用語、集計方法などを細かく定義し、過去の問い合わせと正解となるSQLを登録するなど、実務に合った回答を得るための調整を重ねた。
「実際に使える回答を得るには、地道なチューニングが必要でした。想定される問い合わせを事前に準備し、生成されたSQLが正解かどうかを判断する人間のスキルも重要になります」(野口氏)
こうした調整により、運賃の名称や空港名のマスターを適切に定義し、業務の文脈に沿ったデータ抽出や集計が可能になった。
運用面では、JALデジタルが初期構築や権限管理、コスト管理を担い、分析部門が業務知識の定義や精度改善を担当する。業務部門は実際に利用し、業務で使えるかを評価してフィードバックする。野口氏は「データの構造を理解するデータの知見と、実務を知るビジネスの知見、両方が必要」と話す。
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