吉本氏は、Build & Scrapを開発した理由について「2040年問題を解決したかった」と明かし、次のように語った。
「新卒で野村総研に入社し、7年間ずっと行政のお客さまを担当する中で『行政に経営管理の概念がものすごく必要だ』と思った。民間企業は、独SAPや米Oracleなどが提供する『SPM』(戦略的ポートフォリオ管理)や『財務・企業価値評価』(インカムアプローチ)のシステムを使っている。しかし、行政向けのサービスはない。行政は、GDP(国内総生産)の3分の1を占めるとされる。そこで会計管理や予算編成をアップデートできたら、大きな社会インパクトがある」
行政向け経営管理システムを作るには「財政課の玄人的な知見がないと難しい」(吉本氏)ため、WiseVineは自治体の財務課を経験した人材約20人を社員として迎え入れ、Build & Scrapの開発にこぎ着けた。
ソフトバンクとWiseVineが見据えるのは、Build & Scrapを「公務AIエージェント」の基盤として使う構想だ。約2000種類に上る事務事業をAIエージェントに任せられれば、2040年問題を解決し、消滅可能性自治体の回避につながる可能性があるという。
公務AIエージェントを構築するには、手順や分岐などの「業務フロー」、担当部署が入出力する「ドキュメント」、決裁文書に残らない「意思決定」の3つのデータが必要だ。日々の業務を回しながら、これらのデータをBuild & Scrapに蓄積し、AIエージェントが稼働できる環境を作る。
Build & Scrapに保存したデータは、詳細が分からないよう匿名化や統計処理をして、自治体ごとに公務AIエージェントの開発や精度向上に役立てる。すでに試作品を作成しており、本格稼働は2030年ごろを想定している。
「日本の強みは『コンテンツ』で、これはどの業界でも変わらない。AIモデルで米OpenAIや米Anthropicにはかなわない。ハードウェアで米NVIDIAには勝てない。でも『データ』は日本に勝ち筋があると思う。データを標準化し、AIが読める形式にすることが重要だ。領域特化型AIは、そこに勝ち目がある」(吉本氏)
ソフトバンクとWiseVineは、Build & Scrapを100自治体に無料で提供する。2027年度までにシステム導入を公示した自治体が対象で、入札を経て導入可否が決まる。
無料になるのは、Build & Scrapのサービス利用料5年分だ。システム導入にかかわる構築作業やデータ移行、初期設定、保守・運用、サーバ費用などは自治体が負担する。吉本氏によると、導入費用だけで都道府県レベルで4〜10億円、市レベルで約5000万円、町村レベルで約1000万〜2000万円になるという。
「Build & Scrapは『皆んなで同じものを使う』という標準化がポイントだ。共同調達の仕組みを利用すれば、費用の一定割合を国費で賄える。利用料の無料化と合わせれば、かなりのインパクトがある」(吉本氏)
Build & Scrapの無料提供に打って出たソフトバンクとWiseVine。自治体の経営管理を高度化させ、公務AIエージェントを実装し、迫る2040年問題に備えられるか。
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