自治体DX最前線

AI時代の「自治体Webサイト」の在り方とは? 「3クリックルール」と「市民に探させる」からの脱却(1/3 ページ)

» 2026年08月20日 07時00分 公開
[川口弘行ITmedia]

著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

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川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


 こんにちは。「全国の自治体が抱える潜在的な課題を解決すべく、職員が自ら動けるような環境をデジタル技術で整備していく」ことを目指している川口弘行です。

 最近、ある自治体のWebサイトリニューアルの調達仕様書を目にする機会がありました。そこには「目的のコンテンツに3クリック以内で到達すること」という要件が書かれていました。

 「3クリックルール」と呼ばれるこの要件、かつてWebデザインの世界では黄金の法則のように信じられていた経験則です。

 しかし、この要件は2026年の今、本当に必要なのでしょうか。今回は、AI時代の自治体のWebサイトの在り方について考えてみたいと思います。

photo01 AI時代における自治体Webサイトの在り方を考える(提供:ゲッティイメージズ、以下同)

自治体Webサイトに残り続ける「3クリックルール」、もう古い?

 3クリックルールは、2000年代初頭からWebデザインの世界で広く知られるようになりました。ユーザーが目的の情報にたどり着くために3回以上クリックしなければならないサイトは離脱されてしまう、だから3クリック以内で到達できるように設計すべき、という考え方です。

 しかし、UX(ユーザーエクスペリエンス)の研究が進む中で、この法則を裏付ける十分な科学的根拠はないことが分かっています。重要なのはクリックの「回数」ではなく、ユーザーが「迷わず進められるか」というストレスの有無、つまりユーザビリティーです。

 ところが、自治体の仕様書や提案依頼書(RFP)は、過去の情報をベースに作成されるのが通例です。一度盛り込まれた要件は、根拠が古くなっても削除されず、残り続けます。「3クリック以内」という文言だけが一人歩きして、誰もその妥当性を問い直さない。こうした状況に、2026年の自治体の現場はあるのです。

 問題は、この要件がAI時代のUI/UXとますます合わなくなってきていることです。「クリックして探す」という前提自体が、これからの市民と行政の接点の在り方とズレてきているのです。

「企業サイトの常識」を自治体に当てはめてはいけない理由

 3クリックルールが自治体サイトに適さない理由の一つが、自治体サイトと企業サイトでは「目的」が異なることです。

 企業サイトの目的としてよく挙げられるのが「成約率」(コンバージョン率)の最大化です。見込み客を絞り込み、導線をスリムにし、購入や問い合わせという行動を起こさせる。離脱されれば他社に行かれてしまうため「3クリックで離脱を防ぐ」という論理は、成約率を目的とする企業サイトにおいて一定の合理性があります。

 一方、自治体サイトの目的で重要とされることが多いのが「アクセシビリティ」と「網羅性の最大化」です。また、自治体サイトのターゲットは「特定の見込み客」ではなく、乳幼児の親から高齢者、外国人、障害者などを含む「全住民」です。住民は必要な行政手続きを別の自治体で代替できないので、企業サイトのように「このサイトで見つからなければ別の企業に行く」という関係性とは異なります。

 情報量の設計も逆です。企業は不要な情報を削ぎ落として導線をスリム化しますが、自治体は「マイナーな制度も全て掲載する意義がある」という網羅の制約を背負っています。

 目的もターゲットも情報の性質も異なるのに、企業サイトで生まれた3クリックルールをそのまま自治体サイトに適用してきたことで、不整合が生じていたということです。

 加えて、自治体サイトには特有の構造的問題があります。トップページに「市長のメッセージ」や「観光イベント」といった知らせたい情報(広報)と「ゴミ出し」や「税金」といった知りたい情報(手続き)が同居している点です。全員がターゲットで、全網羅を求められ、離脱も許されない。この構造の中で「3クリック以内」という制約は、かえって現場を苦しめてきたのではないでしょうか。

「探す」から「聞く」へ AI時代の自治体Webサイトはどう変わる?

 では、AI時代の自治体サイトはどうあるべきでしょうか。

 すでにAI時代に即した改良を進めている自治体もあります。AIを活用したサイト内検索の導入、多言語AIチャットボットによる自動回答サービスなどを展開しています。これまでの「市民が自らメニューをたどって情報を探す」モデルから「市民が質問し、AIが答える」モデルへの移行が始まっていると言えます。

 この変化は、単なる画面デザインのアップデートではありません。自治体サイトにおけるAIの役割は、企業サイトにおける役割と根本的に異なります。企業サイトにおけるAIチャットボットが「営業・接客の自動化」だとすると、自治体サイトにおけるAIの重要な役割は「膨大な網羅情報からのデータ抽出」です。

 全住民に向けて全制度の情報を網羅する必要がある自治体にとって、AIは「情報の目次」として機能します。市民の質問に対して、膨大な情報の中から該当するものを抽出し、分かりやすく提示する。これこそが3クリックルールで解決したかった「到達性」の課題に対する、AI時代の答えです。

 パーソナライズも重要です。「あなたのご家庭は〇〇の助成金の対象です」「来月、お子さんの健診があります」のように、マイページやSNSなどと連携し、受動的なユーザーも行政サービスを取りこぼさないような仕組みが求められています。

 また、AIの翻訳・要約機能により、情報のバリアフリー化が進んでいます。難解な行政文書を自動で「やさしい日本語」に書き換えたり、瞬時に多言語に翻訳したりすることが標準的な機能になっていく可能性があります。テキストを読むのが難しい高齢者や視覚障害者などに対して、音声やAIアバターが対話形式で案内するインターフェースも普及していくでしょう。

 3クリックルールの時代は「市民に探させる」ことが前提でした。AI時代は「市民に寄り添い、必要な情報を提案する」ことが前提です。仕様書の要件は、この前提の変化に追従すべきです。

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