自治体DX最前線

神エクセル、業務の分断、人手不足――課題山積の自治体を救えるか “行政DXシステム”無料提供、ソフトバンクの狙い(1/2 ページ)

» 2026年09月25日 07時00分 公開
[荒岡瑛一郎,ITmedia]

 ソフトバンクは9月15日、自治体向け経営管理システム「Build & Scrap」を全国100自治体に無料で提供すると発表した。自治体の予算編成、総合計画、行政評価などを一元管理できるクラウド型の同システムで、行政DXを後押しする。同システムを開発したWiseVine(松山市)との戦略的提携によって実現した。

 「行政の担い手不足が深刻化する『2040年問題』を乗り切る抜本的な方法があるかどうかというと、従来は難しかった。しかし、AIエージェントが登場したことで『消滅可能性自治体』を一定数は避けられる可能性が出てきた」――WiseVineの吉本翔生氏(社長)は、9月15日の記者会見でこう話した。

 両社が描くのは、Build & Scrapを活用することで行政の予算編成や政策立案を効率化・高度化し、関連する行政データを同システムに蓄積して、AIエージェント導入の基盤にするという構想だ。内閣官房、愛媛県、新潟県、横浜市などが導入しており、合計4兆円規模の予算編成やデータ管理を支えている。

 Build & Scrapの無料提供で、自治体のどのような課題を解決できるのか。2040年問題や、消滅可能性自治体――人口戦略会議が提言した、少子化や人口減少によって2050年までに消滅する可能性がある自治体を減らす算段とは。

photo 戦略的提携に関する記者発表会にて、左からソフトバンク 公共本部 本部長の池田昌人氏、WiseVine 社長の吉本翔生氏(編集部撮影、以下同)

神エクセル、業務の分断、人手不足――自治体運営の改革が急務

 アナログな業務、大量の書類でのやりとり、印刷時の見栄え優先でデータ活用に向かない通称“ネ申エクセル”(神Excel、紙Excel)の多用、部署やツールごとの業務の分断、人手不足――自治体はさまざまな課題に直面している。

 こうした課題をITで解決する支援をしているのがソフトバンクだ。同社は187自治体と連携協定を結んでおり(9月15日時点)、同社の池田昌人氏(公共本部 本部長)は、首長や行政職員と対話する中で「自治体の運営をしっかり支える仕組みが必要だ」という声が多数上がったと説明する。

 「(行政職員の担い手が不足する中で)自治体内部の運営業務を効率化することで、市民サービスを拡充・維持できないかという相談を多数受けている。ただ、この領域は大変難しい。自治体特有のノウハウや業務プロセスがある」

 そこで、WiseVineと手を結んだ。ソフトバンクの営業網を使ってBuild & Scrapを多くの自治体に提案・提供し、同システムの環境構築を支援する考えだ。

photo ソフトバンク 公共本部 本部長の池田昌人氏

総合計画〜行政評価まで一元管理 行政の基幹システムとして機能

 Build & Scrapは、行政の基幹システムとして機能する。従来は紙やExcelなどで個別に管理し、情報が分断・分散していた「総合計画」「政策立案」「予算編成」「執行管理」「行政評価」という一連の業務プロセスを、1つのプラットフォームで管理するクラウドサービスだ。

 現在、自治体には合理的な根拠に基づく政策の立案・執行(EBPM:Evidence-Based Policy Making)が求められている。しかし、吉本氏は3つの課題があると述べた。

  1. 事業IDが統一されておらず、成果や費用を経年で比較・評価することが難しい
  2. 「帳票システム」と「Excel版の帳票シート」を併用しており、一部で二重管理がある
  3. 行政評価が次年度の予算に反映されない

 「行政評価――PDCAサイクルのC(Check)をしても、予算に生かされない。今までの事業を何となくやり続けて、そこに新規事業が加わるため、事業数が増える。だからスクラップ&ビルドの『ビルド』が進まない」(吉本氏)

 Build & Scrapでは、これまで使っていた帳票の入力形式を変えずに、そのままデジタル移行できるという。システムとExcelの二重管理を招いていた「独自の入力形式」「印刷時の見栄え」などを反映する「カスタマイズ帳票機能」を備えており、データの集約を推進。各データには「年度A」「年度B」などのIDを割り振って、経年比較を可能にする。

 同システムで、自治体の最上位指針である総合計画から、毎年度の予算編成、振り返りに当たる行政評価までを一元管理できる。吉本氏は「政策>施策>事業というステップで、上位の視点から考えることで『どの事業を継続し、どれをやめるか』を意思決定できる。国も自治体も、末端の事業だけ見てやる/やらないを決めているため、優先順位が付けられない」と指摘する。

photo Build & Scrapは、計画策定、予算編成、行政評価などを一元管理できる(出所:吉本氏の説明資料)
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